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ここ数年のUSPGAは飛距離の話題で始まるのを常としているが、エルスのようなスイングは上手過ぎて仕掛けがわかりにくい。それに比べて若手のスイングはまだ円熟していない分わかりやすい。そこでアーロン・バデリーというオーストラリアの若手プロのスイングを参考に、彼と同じように振れるだろうかやってみた。するとクラブヘッドが重過ぎて同じようには振れない。パワーが違うわけだ。

そこでヘッドを削り始めた。メタルのウッドは金属の風船だから削りようがないし、短いアイアンはフルスイングしないから参考にならない、ということでロングアイアンを削った。普通のクラブのバランスはD-1だが、どんどん削ってC-0になっても同じスイングにはならない。このまま行けばいつかはハエたたきになってしまう。

それでもとにかく削っていくと、B-5のところで気分だけはバデリーになった。スイングは同じになってもヘッドが軽いのだから、ボールを打ったら反作用が大きくて飛距離が心配だ。それはともかく、これでわかったことが一つ、それは「ロングアイアンは軽く打て」という話のからくりだ。

クラブのバランス計というものは、そもそも全てのクラブを同じような感じで打てるように考えられたものだが、今作ったB-5というロングアイアンを振っていると、全くリキまないで振れる、ということに気づいた。

よく巷(ちまた)ではロングアイアンを7番アイアンと同じ気持ちで打てと言うけれど、そんなアホらしい話はない。人の体はオートマチックミッションと同じに作られている。勝手にギアが変わり、しかも無段階変速で実にスムースだ。かすかな登り坂で、妙に汗が出て初めて坂だと気付く。

これは坂道でもそれまでと同じ速度で歩かせようと自動的にギアを変えているからだ。オートマチックでなければ速度が落ちるはずだ。だからギアを一段落とす。これがマニュアルだ。だから7番と同じスイングをするつもりでいた場合、もしもそのクラブが7番よりも重たければ自動的にギアが一段落ちる。それで同じ速度を保つのだからエンジン音が急にうるさくなる。

つまりシャカリキに打つように見える。ロングアイアンでリキむ人が多いのはクラブのバランスが重いからに他ならない。こんな簡単なことになぜ今まで気付かなかったのか。ロングアイアンでショートアイアンと同じスイングが出来ないのはゴルファーのせいではなく、クラブのバランスが正しくないのだ。

百歩譲ってゴルファーのパワーが足りない。坂道だと気付いてしまうほど体力がなかったということだ。軽く打てというプロのアドヴァイスは間が抜けていたのだ。誰も力んで打とうとはしていなかった。ただ7番でない、もっと重いものを、7番と同じに打てと言うからこうなったのだ。

実際お相撲さんにとってはロングアイアンもショートアイアンも変わらない。パワーの絶対値が違うから7番と3番でスイングが変わることはあり得ない。しかし私たちは関取でもプロレスラーでもなく普通の体力を持った普通のゴルファーだ。いや、むしろ非力だ。

今のバランス計は、そもそも相当パワフルな人を基準に作られた。「ロングアイアンの打ち方」というレッスンは何十年もゴルフ雑誌の紙面を埋めてきたはずだが、何の意味もなかった。

もしバランス計が正しいなら、7番と3番と同じに打てるはずだが、実際は7番より3番をゆっくり打たなければならない。レッスンでもそう教えるだろうと推測する。それこそがバランス計が壊れている何よりの証拠に他ならない。

B-5の3番アイアンを練習場に持ち込んで打ってみた。全く同じ3番アイアンでC-9というバランスのものを作って比較したところ、飛距離はとりあえず変わらない。B-5の方は打ち損じがない。

C-9は幾らか打ち損じがある。体がスイングに引っ張られる分だけ安定感に欠ける。もちろん同じスイングが出来ればヘッドは重い方が安定するだろうが、打ち損じは被害が大きい。

B-5の3番が打てたので、他のクラブも調整することにした。ヘッドの重さに体が引っ張られないということを基準にして、気持ち良くビシュッと振れるまでヘッドを削っていった。朝起きてまだ体が硬いときに素振りをする。そのときに重いと感じないところまで削っていった。

もっと重くできると感じたものには重りを付けていった。そうやって9番まで作ったが、その間先入観を排除するためにバランス計は一切使わなかった。そしてついに十分満足に出来上がったクラブセットをバランス計に乗せる時がやって来た。

その結果は3番から9番まで順々にバランスが重くなり、トータルで20ポイントもバランスが動いていた。B-5の3番アイアンからスタートして9番は結局D-6だった。私の感覚が決めた「同じ振り味」に異常がなければ、今売られているクラブはほとんどが長くなるほどにバランスが重くなっていることになる。

つまりバランス計の方が異常で、今D-0というクラブを使っているゴルファーは自分に本当に合ったバランスのクラブがそのセットの中に1本しかないことになるだろう。もしかすると1本もないかも知れない。

7番アイアンが打ちやすいと多くの人が言うのはロフトのせいだとばかり思っていたが、案外本質を突いているかも知れない。私の8番はちょうどD-2だったのだが、このクラブはほとんど無調整で使えた。このテストから考えるに、一般のクラブは8番9番は軽過ぎるし6番より長いものはどんどん重くなって打ちにくくなるだろう。

何番が一番打ちやすいかはゴルファーのパワーや打ち方によって様々だろうが、その番手以外のクラブは全てバランスが合っていないと思った方がいい。ゴルファーの打ち方が悪かったのではなく、骨董的なバランス計を信じていたメーカーが愚かなのだ。7番アイアンはたぶん日本人の標準的なパワーを持っているゴルファーにぴったりのバランスに、偶然なっていたのだ。

私のバランスが誰にでも合うわけではない。問題は今売られている、たとえばD-1というバランスのセットは、決してゴルファーにとって全ての番手を同じ感覚で打てるようには作られてはいない、ということだ。正しいバランス計を作ろうと思えばすぐに作れるのだが、日本のゴルファーというのは盲目的に保守的だからしょうがないかも知れない。

本当にもっとうまくなりたいゴルファーがいれば進化したバランス計は明日にも出来る。しかしアメリカが作らないと日本で作る人はいないし、アメリカのゴルファーはパワーがあるから今のバランス計で間に合っている。何より本当にうまくなりたいと思っているゴルファーを、実は一度も見たことがない。

うまくなりたいゴルファーにドライバーはいらない。ドライバーがスコアを良くするのはシングルになってからの話だ。だからドライバーは持つなと言っても聞く耳を持つゴルファーは滅多にいない。

それどころかドライバーがこれほど売れる国は他にないだろう。ゴルファーはただ夢を見ている。宝くじが当たる夢を見るように、ドライバーが当たる夢を見ている。それでドライバーを何度も何度も買うのだ。

それは悪いことではない。しかし日本でこれだけゴルフが流行っているのに、うまくなりたいゴルファーはほとんどいない。楽しみたいゴルファーばかりだ。それは悪いことではない。

ただ、楽しみたいのと、うまくなりたいのと、自ら錯覚するのは良くないことだ。正直に、私は決してうまくなりたいわけではなくて、ただ心から楽しみたいだけなのです、と言えばいいじゃないか。

うまくなるためには、うまくなるための努力を楽しむしかない。楽しめる努力がうまくなる努力と一致する確率は1パーセントに満たない。それはうまくなることが本当に好きな人だけ、楽しみながらうまくなれるということである。

「これで合格間違いなし」と書いてあるたった100頁に満たない本の脇に、「これだけやれば80パーセントは大丈夫」と書いてある、巨大な百科事典ほどの受験参考書が置いてあったのを見たことがあるが、それは詐欺に会うなら程々にして置けということと同値だ。

ボールはウッドとアイアンを見分けない。42インチのシャフトに210グラムのウッドヘッドが付いていようとアイアンヘッドが付いていようとお構いなしだ。クリークは打ちやすいのにドライビングアイアンはリキんでうまく打てないのはなぜか。

振りやすいということはバランスが軽いのだと思ったけれど、クリークとドライビングアイアンのバランスを測ってみると変わらなかった。もっともケネス・スミスの作った昔のバランス計にはウッドとアイアンに別々の目盛りが書き込まれていた。それが今は一つだけというのも妙と言えば妙だ。

クラブ屋は数値を知ってその意味を知らない。測定器は私のより桁違いに素晴らしいのを持っていても、数値を読む心がなければ何にもならない。スペクトラムアナライザは、使い方を知っているだけではその能力の半分も使えない。知りたいことの意味を考える力がなければ、数値はそれ以上何も語ってはくれない。

元々1番アイアンはクリークで、昔はドライビングアイアンをクリークと呼んでいた。それなのにウッドのクリークが打ちやすくてアイアンのクリークは誰も使わなくなってしまった。なぜか。

その答えをクラブ屋は知らない。ロングアイアンがなぜ打ちにくいのか。ゴルファーはシャフトが長いと答える。それは間違いだ。それではもっと長いクラブがロングアイアンより打ちやすいことが説明できない。ロフトが小さい。それは確かに正解だが、特殊解であって一般解ではない。

それではなぜロフトが小さいと打ちにくいのか。ボールが上がらないからだ。なぜボールが上がらないのか。それはシャフトが短かすぎるからだ。

シャフトが長い方がヘッドのスピードは速くなる。だからロングアイアンにもっと長いシャフトを付ければ打てる。世間の話は逆だ。クラブ屋は「たらこ」で儲けた。魚屋みたいだ。あれはシャフトの長いロングアイアン風のウッドだ。それならなぜアイアンセットにそういう工夫をしないのか、と思ったらそういうクラブが出た。

しかしことの本質はシャフトの長さやウッド風の丸みではなく、リヴァースグースにあるのだから、あまり効果は期待できないと思う。クラブ屋が悪いのではない。ゴルファーが歪んでいるのだ。

ヘッドスピードは十分なのにロングアイアンが打てないゴルファーがいる。これを説明できなければ話は終わらない。熊手型打法の要領からいくと、熊手の爪が90度以上に曲がっていてがっちりボールを掻き込む、そのイメージが大事なのだが、ロングアイアンはその肝心の爪が弱ってわずかな角度しかないようなものだから、ほうきと同じになってしまう。

そうなるとゴルファーはボールが後ろに抜けてしまわないように熊手を地面に押しつけようとする。それではほうきと同じで打ちにくい。ロングアイアンが打ちにくいのはインパクトのイメージが熊手型を維持できずに、ほうき型に移行しそうになるからだ。

パワーがあればほうき型で打てるが、非力でも長いアイアンを使えるゴルファーは熊手型に多いから、イメージが出せるかどうかが問題になる。

だからレッスンプロはロングアイアンのレッスンに関して二手に分かれる。ほうき型でいくプロはもっと力強くボールを押しつぶすことでボールがほうきの下をくぐり抜けてしまうミスを避けるように教える。

一方熊手型は逆に軽くスイングすることで弱った熊手の爪をそれ以上真っ直ぐに伸ばしてしまわないように、かすかな熊手の爪の角度を大事にする方を勧める。

スイングスピードが十分ボールを打てるレベルなのにロングアイアンが打てないゴルファーは、ロフトが小さくてまるでアイガーの北壁のようなヘッドを見て、アドレスのイメージを作りきれないのだ。だから迷いの残るままスイングする。それでミスショットになる。

どうすればいいかというと、家で座ってテレビを見ているときなどに1番アイアンを握り続ける。アドレスのイメージを出そうとあれこれやってみる。ボールはいらないしスイングもしない。ただひたすら1番アイアンを握ってヘッドを見つめる。

そのうち気がつくと3番アイアンが打てるようになっている。1番アイアンのかすかなロフトと戦っているうちに3番のロフトが大きく見えてくる。ロフトが見えればアドレスのイメージも出るし当然スイングは完璧だ。これは簡単なことだが、本当のことだ。

最後に、年寄りは坂道で自動的に速度を落とす。パワーがないから汗をかいても知らず知らずに平地と同じ速度で歩いてしまうことはない。ヘッドを軽くすればロングアイアンは打てるが、パワーがなければロングアイアンの飛距離は出せない。力学は普遍だから。

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