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私の目には、日本人ゴルファーのスコアが、その持っている技術に鑑(かんが)みて妙に悪いと感じられる。技術あって実力なし、というのだろうか。それは私がごく自然なスタイルでゴルフを楽しむ人々の住む世界でゴルフをしていたからだ。

しかしスコアは本来正直であり、そのスコアなりの技術しか持っていないからそういうスコアになると言われれば、そうなのかもしれない。勝てる技術はあると誰もが認めるプロゴルファーがどうも勝てないという状態が、本当にあるだろうか。勝てないのに勝てる技術があるとはどういうことか。それは嘘だろうか、勘違いだろうか。

テニスのポイントは変則で、先に4ポイント取った方が1ゲームを取り、先に6ゲーム取った方が1セットを取り、先に3セットを取ったら勝ちだ。1ポイントも落とさず勝つならば72ポイントで済む。それなら初めから72ポイント先に取ったら勝ちということにすればいいじゃないかと、しかしそれは全く違う話になるのである。

たとえばポイント4-0ということで1ゲーム取れる。あなたがこの絶好調を維持して5ゲームすべてを4-0で取ったとする。そこまでのポイントは20-0である。しかしその後相手が4-3というポイントで6ゲーム取ると、ポイントは24-18である。あなたの取ったポイントは合計38あり、相手は24ポイントしか取っていないが、素朴な計算では5-6であなたは1セットを落とす、というシステムになっている。

実際にはタイブレイクとかジュースというのがあるからもう少し複雑だが、最近はスピード時代を反映してそれもなくなりつつある。さらに話は続く。3セット取れば勝ちだから、極端な話、114-72という得点差がありながら、72ポイント取った方が勝つことになる。テニスはドラマである。ゴルフもまたドラマであるはずだ。

つまり80で回れる技術があるのに95がやっとというゴルファーがいても不思議ではないのかも知れない。ただそういうゴルファーがすべて日本人だということになると、その方が不思議だ。私は日本人ゴルファーの技術を疑わないが、日本人ゴルファーの文化を疑うのである。

短編小説の仕組みは長編小説とは違う。私は小説をほとんど読まないのだが、子供の頃に傑作短編小説の仕掛けに気付いた。長編は淡々と進み、仕掛けがない。その点短編は初めの仕掛けが全てだ。

作品の最初の部分で、あり得ない前提を、全くそれと気付かせないようにセットする。その後の展開をどう書こうと、読者はやきもきし続ける。不当に対して腹を立て、あるいは世の中の不条理に涙する。しかし全ては、綿密に作られた虚構の前提がドラマを作るのである。

すぐれた短編を書きたければ、あり得ない前提を当たり前のことと思い込ませる技術に習熟すればいい。簡単ではない。しかしこの一点に集中すればそこそこの短編は誰でも書ける。

私と変わらない技術を持ったゴルファーが、私より遙かに悪いスコアで回る。そんな馬鹿なと思うだろうが、114-72で72の方が勝つという事実はテニスでもゴルフでも起こる。

なぜ114ポイント取った者が、72ポイントしか取れなかった相手に負けるのか、その不思議を理解すれば、日本人ゴルファーの平均スコアは7つくらい上がる。しかしそれを理解しないところが日本人ゴルファーの文化なので、始末に負えない。

肉を切らせて骨を断(た)つと言うが、ゴルファーを見ているとかすり傷一つ負わないで勝とうとして死を招いているように見える。プロのゴルフは長編だが、アマのゴルフは短編である。つまり決してあり得ない前提を如何にも当然のことのように思いこんでいる。

そのあり得ない前提とは何か。ゴルフはボールを「打つ」スポーツだと信じ込む、あるいは信じ込ませる仕掛けである。練習場がそれを決定的にする。ゴルフはボールを「打つ」スポーツではない。「運ぶ」スポーツである。

楽に運べる方法があれば、打たなくてもいい。手で投げてもいいならグリーンまで5メートルで誰がウェッジを持つか。手が使えないから仕方なくクラブを使うのならば、誰もウェッジは使わない。わざわざ危険な「だるま落とし」に挑戦する必要はないからだ。

そのとき当然のごとくウェッジを持ち出させて、それを不思議と思わせないのは、ゴルフを「打つ」スポーツだと信じ込まされているからである。ゴルフがボールを「運ぶ」イメージのスポーツならば、転がすだろう。それでは傑作短編小説は書けない。そこが傑作短編小説の仕掛け、である。筆者

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