« 0039 | トップページ | 0047 »

謝永郁さんとゲイリー・プレイヤーはチップの名人だった。私もチップが好きだ。私のホームコースはグリーンがフライパンを伏せたような形で小さいし硬い。第2打を直接グリーンに打ったのではボールはバウンドしてグリーンからこぼれる。従って手前から転がして乗せるしかないがそううまくは行かない。いつでも第3打がグリーン周りからのチップショットになる。それで私はコロガシに慣れた。

もしゴルフ場にグリーンがなく、フェアウェイの適当な場所にカップが切ってあるだけだったとしたら、カップまで残り5メートルを何で打つだろうか。パターは使いにくい。グリーンほど滑らかではないからだ。しかしだからといってわざわざウェッジを使うだろうか。芝の状態次第でパターから5番アイアンくらいが妥当な線だろう。最近のゴルファーはそこで必ずウェッジを使う。そんなナンセンスなことを皆やっている。

確かに今日のプロゴルファーは滅多にチップショットをしない。たまにアーニー・エルスが花道にショートしたボールを見事にチップするが、ほかのプロは同じところからピッチエンドランだ。グリーンのそばでは常にウェッジを握る。それはプロの戦うコースのグリーン周りが深いラフで、ウェッジでなければボールを出せないという事情と、セカンドの距離感が正確なのでグリーン手前の花道にショートすることはまずないからだ。

花道からなら転がせるのに、こうしてウェッジを使うことがあまりに多く、使い慣れてしまったから、何もウェッジを使わなくてもただ転がせばいい場合でもつい使い慣れたウェッジを使う。それを見ているから一般ゴルファーもウェッジでピッチするのが当たり前と思う。

ウェッジを使うのが悪いのではない。俊足のランナーが3塁にいるとき、打率ゼロのバッターピッチャーに向かってフォークボールを投げるのはナンセンスだと言うのだ。どれほどフォークのコントロールに自信のある投手でも、ストレートを3球投げれば済む状況でフォークは投げない。

プロゴルファーが8番でチップショットが出来るところでわざわざウェッジのピッチショットを使うのは、ストレートのコントロールよりフォークのコントロールの方が良くなってしまった投手のようなもので、例外である。タイガーでさえ決して不必要にウェッジは持たない。

ボールの目線に立ってみると、ロフトのあるクラブほど当てるのが大変そうに見える。サンドウェッジをボールの目線で見ると、ただの細い線のようで、ボールが当たるフェイスの面積は実にわずかだ。到底ボールがうまく当たるとは思えない。ところがゴルファーは上からクラブフェイスを見るので、クラブフェイスの大きさがボールの目線とは逆になる。ロフトのあるクラブはロフトのないクラブより短いことも手伝ってやさしいと錯覚を起こしている。

さらに恐ろしいことには、パターはウェッジの次のクラブだとゴルファーは思いこんでいるらしい。確かに長さの順に並べればパターはウェッジの次に来るし、普通第2打のウェッジショットがグリーンに乗れば次はパターだ。しかしクラブをロフトの順に並べる習慣があるコロガシ屋にとっては、パターは断然ドライバーの一つ前のクラブだ。

ドライバーのロフトは10度、パターは2度ほどだ。クラブを一直線に並べれば最初にパターがあって次にドライバーが来る。つまりウェッジとパターは最も遠い縁である。ゴルファーはそれを円形に並べるから勘違いするのか。

グリーンエッジからのコロガシにスプーンを使うタイガーの方法が流行っているが、あれは厳粛なコロガシの法則に従っている。彼はまず一番ロフトのないクラブ、つまりパターを考えた。しかし滑らかなグリーンまでに少し芝生がある。どれくらい芝に喰われるかわからないからパターは使えない。とにかくそこは飛び越して避けたい。

パターでもドライバーでも、その芝生地帯を飛び越えるほどの力で打つとグリーンに落ちてから転がる距離が長すぎる、とタイガーは考えた。それではホールを越えてしまうから無理だ。その次に候補に挙がるのが3番ウッドで、そこでクラブが決まったわけだが、状況がもう少し違えば、彼はさらに4番アイアンからウェッジまで順番に考えただろう。「出来るだけロフトのないクラブを使う」のがコロガシの定石だからだ。

「月を射よ」と言われて誰がわざわざ三日月の宵を選ぶか。ゴルファーだ。ボールの目線で見ればウェッジのフェイスは三日月どころか二日月に見えるほど細い。6番アイアンが半月、そしてパターはほぼ満月だ。月を射るなら満月の夜に限る。ゴルファーは上からクラブを見るので、3番のフェイスは小さく、ウェッジのフェイスは大きく見える。ボールから見る目線とゴルファーの視線とではフェイスの大きさが逆になることにどうしても気付かない。「ロフトのないクラブを使う」というコロガシの定石の意味がここにある。

3番ウッドで打てるという計算結果が出たということは、3番ウッドならば芝を避けて直接グリーンまで打った時、転がるボールがホールを越えない、ということを意味する。3番ウッドで50センチ打ってグリーン上にボールを落とすと5メートル転がるとする。つまりそのゴルファーのスプーンは飛ばす距離の10倍転がるわけだ。「出来るだけ」の意味がそこにある。

コロガシの定石を知らないゴルファーは、7番で1メートル50打てば4メートル転がるから、3番ウッドでなくても7番アイアンでいいじゃないか、と思ってしまう。しかし1メートル50センチは50センチより長い。50センチのパットと1メートル50のパット、どちらでもどうぞと言われて1メートル50の方を選ぶゴルファーはいないし、スプーンと7番アイアンでは当たる面の大きさも違う。ざっくりやる確率もまた段違いだ。

それをあろうことか7番どころかサンドウェッジを使うのはもはや暴挙と言うほかない。チーズフォンデュの鍋じゃあるまいし、カップの周りに芝生がなくて全部が池ならともかく、ボールが転がせるのにウェッジでいきなりカップへ放り込もうというのはナンセンスだ。

一番ロフトのないクラブはパターで、それで打てないときにドライバーを使う。ドライバーで打てないときスプーンを使う。こうしてどこかでクラブが決まる。飛び越えるハザードの幅次第だ。そうして落とし場所が一番近くにセットできるクラブを使うのである。7番で3メートルより3番ウッドで1メートルのほうが落とし場所が近いし、打球面はボールから見ればウッドのほうが7番より大きいことをお忘れなく。

こうしてクラブを規則通りに選ぶ作業は実に楽しい。パー3のティーグラウンドでクラブを選ぶ楽しさと全く同じだ。機械的に選ばれたクラブで、グリーンへボールを直接乗せさえすれば、それでもう必ずホールから50センチに寄る。それにはまずボールからグリーンまで歩いて何歩あるか数える。次にグリーンエッジからホールまで何歩か数える。その比が大きければ大きいほどショットは簡単になっていく。

たとえばグリーンエッジまで15メートルもあったとしよう。誰もがこれはウェッジしかない、と思うだろう。ところがピンが奥に切られていて測ってみればエッジから15メートルあったとすれば、その比は1対1なのだから9番か8番でグリーンエッジを越えたところに落とせば済む。ラインが登りだったりすれば下手をすると7番でいける。

それでもサンドの方が慣れているから簡単だと思ったゴルファーがいるだろう。何という愚かな。15メートルの15メートルでおおよそ30メートルをウェッジで打つのが簡単と感じたゴルファーは、ピンに寄らない自分のボールを「ショートか」などと言ってさも運が悪いというように、自分自身思いこむのだ。

30メートルをサンドで打ってピン2メートルに寄ったことがどれだけあったか、統計を見ない。ほとんど寄っているはずはない。3メートルに寄ればナイスショットと声がかかるだろう。コロガシならば黙って1メートルに寄る。

確かにグリーンに乗せるのは簡単だ。何しろ15メートルの奥行きがあるのだから。しかし考えて見れば30メートル先のピンそば2メートルにウェッジでボールを運べるということは、大変な技術である。それはグリーンまで28メートル残して、手前のグリーンエッジからわずか2メートル行ったところにピンが切ってあり、しかもグリーンそばまではずっと池だったという恐ろしい状況よりまだ悪いところで平然と打てる技術があることを意味する。

まだ悪いと書いたのは、池ならそれを越えようとしてショートはしないからだ。そういう場合は案外いいショットになることがある。いいショットと言ったってせいぜいピン奥5メートルだ。しかしいずれにせよ普通のゴルファーならこの状況はノーチャンスだと思うだろう。グリーン奥には乗るが、ベタピンはまず考えない。何しろ池越えなのだ。

物理的に全く同じ状況なのに、なぜゴルファーはウェッジを持つのか、理由がわからない。コロガシを選ぶということは、この場合なら池が凍っている状況に変わるのと同じだ。池の上を転がすことが出来る。つまりグリーンに乗ったのと同じでパターでもいける状況に近い。ウェッジだと万が一ショートして池の上に真上から落ちたらドスンと氷が割れるが、コロガシでは氷は割れない。

しかもウェッジはボールのライによって幾らでも飛距離が変わる。練習場でティーアップしたボールをサンドウェッジで打つことは簡単ではない。ましてティーの高さを変えながら常に同じ距離のボールを打つことはほとんど不可能だ。

多くのゴルファーはグリーンまで15メートルで、そこからピンへ3メートルしかないとき、ウェッジでざっくりやって、届かない。グリーンオンだけを考えればグリーンの真ん中に乗るチャンスが半分くらいはある。ウェッジの距離感はそれほど難しい。その点9番はロフトがウェッジほど寝ていないからボールを上げるというより前に飛ばす感覚で打てる。だから距離感が出やすい。

ウェッジの代わりに9番でグリーンのエッジを越えた辺りに打つと、ボールはピンを越えてしばらく転がる。10メートルは転がるだろうが、それでもグリーンの真ん中だ。仮に狙い過ぎて手前のエッジに落ちてしまってもボールはウェッジほど上から落ちないのでワンクッションしてピンそばに止まる幸運も希ではない。

コロガシ上手になるとそれこそ7番でわざとエッジにボールを引っかけてブレーキ代わりに使うこともある。芝生の生え方とボールに対する影響を熟知しているゴルファーはそれが出来るが、それほどの腕があるゴルファーでさえ、ボールのライによるウェッジの距離感の微妙な変化は難し過ぎてわからないから、ウェッジは使わないのだ。

コロガシでもピッチでも、エッジからピンまでが近ければ近いほど難しくなる。ボールからエッジまで5メートルでもそこから3メートルでピンだったりするとき、転がすにしてもウェッジを使わなければ計算が合わなくなる。そういうときに初めて9番で転がすかウェッジを使うか考える。

ピンをオーバーするのがわかっていても、ミスよりはましだから9番を使うことが多い。実際問題ピンがグリーンエッジからそれほど近くに切ってあることはまれで、せいぜいグリーンをオーバーしたときの返しのコロガシにそういう場面が間々ある程度だ。

ラウンド中にしばしばコロガシに4番を使うか5番かで迷うようなときがあるが、それは160のパー3のティーグラウンドで4番か5番かと迷うような楽しさである。常にウェッジを持つことしか知らないゴルファーは、グリーン周りでこんな楽しい悩みを持つことはないだろう。しかもこの悩みは次元が高い。

大体グリーンエッジからピンまで10メートルあって、ボールからエッジまでが3メートルある時に、4番か5番かで悩むのだが、4番か5番かの差は結果にせいぜい1メートルの違いとして出てくるだけだ。しかもショットの目標はたった3メートル先にある。ひたすら13メートル先のピンを狙ってざっくりとトップの恐怖と戦いながらコントロールショットを試みて、仮にうまく打てても3メートルもショートしたりするウェッジ使いとは次元が違う。

言い換えれば、パー3のティーグラウンドで4番と5番のどちらを使うか悩むとき、それはグリーンの奥か手前かの差に悩むわけだが、グリーン周りでコロガシを知らずに常にウェッジを持つゴルファーというのは、パー3のティーで常にドライバーを持つのに等しい。スイングの加減ばかり考えなければならないのだ。160のパー3をドライバーで打つのはおもしろいが、いくらか難しい。頼まれもしないのに、誰がそんな曲芸を披露しようとするだろうか。

私は「チップショット」を勧めるが教えることはできない。興味のあるゴルファーはゲーリープレーヤーや謝さんの本を読むといい。私は読んだことがないが、きっとコロガシについて書いてあるだろう。彼らの言葉に勝るレッスンはない。コロガシ慣れた私の場合3番アイアンで2メートル打つと落ちてから大体6メートル転がるが、普通の人はもっと転がる。

ウェッジの練習が悪いわけはない。ただコロガシならばウェッジの練習にかかる時間の100分の1の時間で同じ結果が出せるだけのことだ。その先まで行くならウェッジの方が断然いい。しかしその先とは何か。アンダーパーで戦うにしてもアマチュアのレベルではまだまだコロガシに分がある。謝さんのゴルフを見ていた人はそれがわかる。

ウェッジの練習が活きるのは、アメリカのプロゴルフトーナメントのコースでプレーする場合とトラブルの時だけだ。だからどちらの練習を採るかは賭といえば賭だが、複勝と3連単ほど勝率が違う賭なのに配当は変わらない。

バスケットボールでコートの中央からシュートしてゴールする練習に意味がないわけではない。それが出来れば常勝チームが出来上がるだろう。しかしその練習に何年費やしても、同じ時間をパスとドリブルでゴールのそばまでねじ込んでダンクシュートを決める練習をしたチームには勝てない。そういうことだ。

アマチュアがウェッジを極めることは不可能ではないが不合理だ。なぜならゴルファーは別段不可能に挑戦するつもりはないのだから。ただスコアをもっと良くしたいだけの事にウェッジを極めようとするのは、高尾山に登るためにエヴェレストに登るのと同じ装備をしようとするようなものだ。それは万全かも知れないが、安全ではない。

せめてコロガシが上手になって、それでも足りないくらいレヴェルが上がってからウェッジの練習を始めたらどうだろう。その方が簡単だし、何よりゴルフがもっとおもしろくなる。ゴルフ場のコロガシ練習用のグリーンで、ウェッジを使って練習している女性ゴルファーを見ることがあるが、7番を使えばもっと簡単なのにと思う。プロがそばにいれば断然7番を持たせるだろうが、素人が教えているからほぼ時間の無駄だ。 筆者

« 0039 | トップページ | 0047 »