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ゴルファーはティーショットを打つとき、槍を投げる瞬間の如きエネルギーの爆発を見るのであろうか。それとも筋肉の限りに引いた弓を解き放つ瞬間の如き精神の集中を感じるのであろうか。

アマチュアゴルファーのほとんどは前者に属する。ところで弓と槍とでは何れがより高度な武器だろうか。弓が槍を駆逐したという話は聞かないし、逆に槍が弓を葬り去ったというのでもない。場合によって使い分けられた。それではゴルフスイングには弓式がいいのか槍式がいいのか。

ゴルフスイングを槍式でするのは簡単だが、弓式のスイングを実践出来るゴルファーは決して多くない。弓は一杯に引いた後、矢を離すまで踏ん張っていなければならないが、矢を放つ瞬間に力の終点がやってくる。

矢はその後に力を受けるのである。槍はリリースするその瞬間まで力を入れ、そこが力の終点である。くるみを割るのに、金槌で割るのと漬け物石を落とすのとは、割るパワーを同じにすることは出来るが、どこか違う。

(日曜大工の店でエアーコンプレッサを買うときには、タンク式よりノンタンク式の方がいい。タンク式は小さなパワーでも時間を掛ければパワーが蓄積されるし、大きなタンクを買えば大きなパワーを長時間出せるわけだが、ノンタンク式はいきなり必要なパワーを出せる。ただしその分すごく大きな電流が流れるから電気代がかかりモーターも大きくなる。毎日ずっと使い続けるプロはタンク式が適しているが、素人はちょっと使うだけで、しかも使うとなればわずかな時間でもパワーはプロ並みに必要だからノンタンク式がいい) 何のこっちゃ。

弓は矢を射る道具である。その弓を引くのが人間で、飛ぶのは矢だ。ところが槍を投げるのは人間で、飛ぶのも槍自身だから、道具は人間だけということになって、話はややこしい。

ゴルフボールを打つのはクラブで、それを振り回すのが人間で、たまにクラブが飛ぶこともあるが普通はボールが飛ぶから、クラブは道具である。しかしどうも弓ほどの道具ではない。槍と弓の中間くらいか。

簡単に言い分ければバックスイングで力を貯めるゴルファーはダウンスイングで力を入れない。これが弓式打法だ。槍式打法ではバックスイングは単に助走距離を作っているに過ぎないからダウンスイングで力一杯走り出す。細かく言うと両方の方式はミックスされる場合が多いが、ごく簡単にはそういうことだ。

槍投げは距離の大小を競うスポーツで方向は大体で構わないが、弓道は行き先の正確さを競うのだから、漬け物石を落とすような方式の方が金槌でたたくよりはいい。三脚に固定したカメラは手持ちよりいいし、さらにレリーズがある方がシャッターを切るときブレが少ない。

従ってドライヴァーは槍式で構わないが、ショットは断然弓式が好ましい。弓式はダウンスイングでパワーを稼ぐ必要がない。ボールを打つパワーはすでに貯めてある。だからダウンスイングでは何もしない。

実際槍式はインパクトまでずっと神経を使う。それが性に合っているゴルファーは槍式に限る。弓式はアドレスとバックスイングで全ての神経を使い果たし、その後はただスイングを終わらせるだけだ。

雪道や山道のラリーを見ていると、カーブを曲がるにはパワーオンで廻る。ハンドルをかすかに切って、後輪にパワーを与え、無理矢理といった感じで車の方向を変えながら加速する。パワーオンターンだ。かっこいい。これは言わば槍式である。

それに対して前輪駆動車の場合、後輪にパワーは掛けられないからどうするかというと、カーブの手前まで全速力で突っ込む。そして同じようにかすかにハンドルを切るところまでは同じだが、それからアクセルをオフにするかブレーキを踏む。車はつんのめってお尻を上げ、行きたい方向に車体が向くのである。

これをパワーオフターンという。ミニクーパやファミリアで走るときはこれしかなかった。つまりパワーをオフにして静かに曲がる。弓式スイングにはパワーオフターンのイメージがある。

プロが曲がるにはパワーオンの後輪駆動が速いが、素人はパワーオフの前輪駆動の方が速い。パワーオンはパワーオフに比べてかなり技術的に難しい。冬の北海道をシルビアで走るのは地元の若者に任せ、旅行者は前輪駆動車を借りるのが賢明だろう。真っ直ぐ走るにもパワーロスの少ない後輪駆動の方が本当は速いが、素人には前輪駆動のほうが速い。

前に進むとどうしても前が浮く。後輪駆動はパワーが後ろだから前が浮いてもへっちゃらだが、前輪駆動は前輪が浮いたのではパワーを掛けられなくなる。

しかし素人では後輪駆動は何しろ後ろから押しているのだから技術がないとすぐくるっとスピンするが、前輪駆動は前足で掻き込むから多少お尻を振ったとしてもぐんぐん前に進む。緩いカーブなら行きたい方にハンドルを切ってアクセル全開にしてやればそっちに向かって走ろうとする。

弓は弓がしなって矢はしならない。槍は投げる人がしなって、槍はしならない。ゴルフも人がしなる。シャフトもしなる。しなりはそこにエネルギーが貯まっていることだから、それが戻るときにはそのエネルギーが発揮される。弓が比較的正確なのは、エネルギーを貯めることと狙いを定めて発射することが別々に出来るからだ。

大抵の機械は弾力やしなりをそのまま利用することは少ない。誤差の調整が難しく、精密に動かせないからだ。ペインティングナイフやコテ先のように、その弾力を利用するのは職人技だ。ゴルフスイングはそういう意味で職人技だが、出来ることなら避けたい。リズムに頼らないスイングがあれば、それが最も正確なのだ。

むかし巨人に張本という怪力バッターがいた。怪力だから普通にやればホームランバッターのはずだが、彼はあえてエネルギーをほとんど貯めないノンタンク式スイングを実践した。だからヒットは幾らでも打つ。それこそマシンガンのようにどこへでも打てた。あんなすごいバッターは他に見たことがない。打つだけならイチローよりすごかった。

普通の打者は勘と読みで打つか、あるいは鋭い反射神経でボールを捕らえるが、いずれにしろバットを振るにはエネルギーを貯めなければならない。そこでエネルギーを貯めることと打つことの間でリズムが重要になる。その道を極めたのが一本足打法の王で、全く逆の道を行ったのが張本だ。彼はタイミングに頼らずいつでも打てた。

弓にもリズムは必要だろうが、槍よりは進化している。アーチェリーは弓より進化している。ボーガンはアーチェリーより進化している。ただしアーチェリーまではゴルフスイングに応用できるが、ボーガンは手を離してもエネルギーを保持するから、これはなかなかゴルフスイングに出来ないだろう。

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