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落ち葉を掃く機会も少なくなったが、それには昔から熊手が使われる。ほんのわずかな量なら箒(ほうき)でやってしまうが、面積が大きくなるとやはり熊手にはかなわない。落ち葉をかき集めるのに熊手なら力がいらない。カギ状の先が、がさっと落ち葉をかき集めてくれる。

同じことをホウキでやるには力がいる。落ち葉がホウキの先からすり抜けないように、かなりの力でホウキを地面に押しつけなければならない。もしも落ち葉がゴルフボールほど重たかったら、腕力のある人でもホウキでは掃き切れない。やはり熊手の出番だ。

ゴルフスイングにもボールの捉え方に熊手型とホウキ型がある。セルヒオ・ガルシアやクリス・ライリーは典型的なホウキ型で、ホウキでボールを掃くことを想像すればわかるように、ボールはしっかり押さえつけられて低く飛び出す。その後高く舞い上がって落ちる。古いゴルファーは宮本留吉型と言うだろう。

パワーが足りないとボールがホウキの下から抜けてしまう。ボールが上がらないミスが起こる。対して熊手型はいきなり高くボールが飛び出す。ドライバーでは区別しにくいが、アイアンでははっきりしている。あなたのボールが低く出るならホウキ型、高く出れば熊手型だ。

ホウキがあって熊手のない家はあるが、その逆に熊手はあるがホウキが無いという家はない。ホウキはある程度万能だから熊手の代わりもするが、熊手はホウキの代わりにならない。同様に、と言うべきかゴルフスイングもホウキ型が圧倒的に多い。

しかし熊手がホウキに比べてやや特殊な道具であるように、そのスイングも幾らかテクニカルで味がある。熊手型はボールを打つことに関して不安がない。必ず当たるし決まった距離が出せる。ただどこに飛ぶのか不安なだけだ。ホウキ型はボールを打つことに神経を使い不安が付きまとうが、うまく打てれば方向に不安はない。

ボールを打つという作業は、細かく言うとボールを捕らえることと放すことの二通りの作業で成り立っている。ショートゴロは捕球と送球で成立するが、捕球だけなら虫取り網の方が断然有利だ。ただ捕ったボールを網から取り出して投げるまでに時間がかかり過ぎる。右手で捕球してそのまま投げるのが一番早いが、たとえグローブのような手を持っていても虫取り網ほど確実に捕球は出来ない。

熊手はがっちりボールをつかむ。そういう風に作られているのだからボールを捕らえることに神経もパワーもいらない。ところが捕らえたボールをいざ掃き出す段になって、自由が効かない。ホウキはその点書道の筆の如く微妙なタッチを持っている。

掃き出す段になれば断然ホウキに分があるのだが、ボールを捕らえるまでが大変で、力を入れなければボールがつかみきれないし、入れ過ぎれば折れ曲がってホウキの役を果たさない。力加減が難しいのだ。

スプーンが箸(はし)よりも便利なのは物を捕まえるのが簡単な上、そのあと口という極めて柔軟で器用なところに運ぶからであって、もしも口に持っていくのでなければ、スプーンで捕まえたバターやアイスクリームを全部きれいさっぱり、たとえばトーストの上にリリースするのは不可能に近い。

スプーンは熊手型である。スプーンの背中を使ってバターを塗るのがホウキ型であるが、それは子供の知能では出来ない。まずバターの取りやすさを考えるから、子供はガサッとすくってしまう。或る程度脳が発達してバターをつかむことの簡単さよりも、それを塗るときの簡単さを考えるようになって初めてスプーンの背中でバターをすくう。これがホウキ型だ。

ゴルフについて昔から「下手は押し、上手は引く」と言われる。日本ののこぎりと同じだ。日本のは引く時に切れるように刃が付いている。なぜか知らぬがヨーロッパのは逆に押す時切れるようになっている。それでいてナイフで鉛筆を削るのに日本人は刃を向こうに押し出して削るがヨーロッパでは逆で、手前に引いて削る。

正確なトレースには引く方が有利だし、力を入れるには押す方がいい。机の上のマッチ箱をお尻から指で押してもなかなか真っ直ぐには動かない。真っ直ぐに動かしたければ、ひもでも付けて引っ張れば、断然真っ直ぐ動かせる。雪道で前輪駆動が後輪駆動よりはるかに走りやすいのは引っ張るからだ。

熊手は引っ張る道具である。ホウキは引くという要素も持っているが、押す道具の要素が強い。昔はホウキを上手に使うには引くだけにしなさいと教わったものだ。ほこりを引っ張ってかき集めたところで動きを止める。それ以上ホウキを動かすと今度はほこりが跳ね上がって舞ってしまうからだ。昔の人は賢かった。

スイングが引っぱるべきものなら、引く道具を使う方がいい。それで少しややこしいが熊手型のスイングを覚えた方が早くスコアが良くなる。熊手型ゴルファーの典型はハル・サットンだ。

フランク・リックライターは最近スイングを変えてしまったらしい。日本の伊沢プロも見事な熊手型だが、スイングがあまりに美くし過ぎてわかりにくい。熊手型は左の手首を逆L字に固定する。ここが熊手の由縁だ。逆にホウキ型は左手首を柳の枝のように柔軟に使う。

(注。2005年のシーズン当初に、テレビで伊沢プロのひと振りをちらっと見たが、熊手型ではなかった。多分左手首のダメージが大きくて、スイングを変更せざるを得なかったのだろうが、果たしてほうき型で勝てるだろうか。もっと手首に負担が来ない熊手型もあるのだから、そちらを試す方が良かっただろう。)

だから手首を痛めたとしても、ホウキ型は腱鞘炎程度で済むが、熊手型は手首をロックして使うから痛めるときには台風で大木が折れるときのようにいきなり破壊がやってくる。骨にひびが入る。

熊手型はスイング中に自由に動く関節がホウキ型より一つ少ない。ちょうど手首を使わないで金槌を打つような感じになる。従って命中率は高いが力が出ないような感じがする。もっとも伊沢プロより飛ばすゴルファーはそう多くないから気にするほどではない。

格闘技の武器に「ぬんちゃく」というのがある。火の用心の拍子木を縄でつないであるようなものだ。これがホウキ型スイングの手首のイメージで、柔軟に動かせる。もう一つ、二本の拍子木がL字に組んであるような武器を見たことがある。

棚のつっかい棒みたいだが、それが熊手型のイメージになる。どちらが武器として強力かはわからないが、ぬんちゃくの方が遠心力をうまく使えば強力そうだし、壁にくぎを打つにはL字の方が使いやすそうだ。

熊手型は少数派である。私たちが日常の生活をホウキで間に合わせているからか知らないが、どうも熊手が日の目を見ない。個人的には熊手という道具に感心しているので、ゴルフスイングも熊手型の良さに正当な評価が与えられることを願っている。

ただ熊手型スイングは、人がゴルフをやっている間にごく自然にたどり着けるスイングとは言えない。ある程度ゴルフに悩んだ果てに、いわば人工的に見つけだすものだ。だからそれは教えられないと分かりにくい。

そんなに熊手型は珍しいのかというと、実はパッティングは誰でも熊手型だ。左手首は固めるのが普通だろう。その手首のまんまでドライバーを打つのが熊手型だ。そう言われてもちょっと出来そうには見えない。

何しろシャフトの動きが円月殺法の如く不自然になるから、ハエたたきのように軽いクラブでないと実現できそうにない。最初は誰でもそう思う。ところが神様仏様との間で幾らか妥協すればそのうち出来るようになるから不思議だ。

熊手型は重さに影響されないので、深いラフから打っても同じボールが打てる。実際アマチュアはプロに比べてラフに弱い。それをアマチュアゴルファーはプロがパワフルだからだと思っているようだがそればかりではない。実はアマチュアのほとんどがホウキ型なのに比べてプロには結構熊手型がいるからだ。

スイングがどんなに速くてパワフルでも、柳の枝を振っていたのではラフには勝てない。熊手は鋼鉄の如く強い。スイングさえ出来れば、そのパワーはもれなくボールに伝わる。手首をフレキシブルにして鞭のように振ると、ボールを打つときに落とし穴があるのだが、熊手型にはない。ガルシアはパワフルだがホウキ型なのでラフには強くないはずだ。

熊手型スイングを語るときにラリー・ネルソンの不思議なスイングに言及しないわけには行かない。彼も飛ぶ方だが、トップでクラブシャフトが変わった向きになる。剣道の八双の構えのような、不思議な形を作る。それは熊手型の究極の形なのだろうか。

熊手型は積極的には地面を掘らない。引っ掻くのだ。ホウキ型の方は掃くのだから地面を掘るわけはないが、しっかり打つとなると地面を掘らざるを得ない。結果的にどちらが沢山ターフを取るか、セルヒオ・ガルシアや宮本留吉は積極的にターフを取るが、中村寅吉はターフを取らない。とすると、寅さんは熊手型だったのかも知れない。

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