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フィードバックは、一種エコーのような現象を言う時、最近便利に使われている。ワイロを贈って見返りがあればそれもフィードバックと言うし、風が吹いて桶屋が儲かるのもフィードバックだ。初めて聞いたのは電子回路の用語としてだったから、そういうものだと了解していたが、今では一般用語として耳にするようになった。

小学校の朝礼で、校長先生が教訓の一つも垂れようかと気合いを入れた時に、スピーカからけたたましいピーピーという音がしたのを聞いた経験は誰でも持っている。

あれがフィードバック(正しくはポジティブフィードバック、正帰還)だ。マイクに入った音がアンプで何倍かになってスピーカから出てくる。その音がまたマイクに飛び込んで増幅され、スピーカから出る。それがまた、ということになると先生の声は無限に大きくなって地球の裏まで届く、かというとそうはならない。

この世の中では無限に大きくなるという夢は実現しないようになっていて、ねずみ講でもカルノー機関でも物理の法則には逆らえない。だからあのピーピーという音は、無限の夢が破れた果ての錯乱状態とも取れるし、あるいはまた哀しみの絶叫のようにも聞こえる。正帰還はもちろん重要回路であるが、社会一般の正帰還というのはしばしば極めて怪しい。

その逆の負帰還(ネガティブフィードバック)というのがあって、実はフィードバックはこちらの方がより本質的だ。この回路は非常に巧妙で、電子回路以外にもスタビリティ(安定度)の向上を目的とするあらゆる場面に応用される。この回路の起源はわからない。誰の発明だと聞いたことはない。ちょうどゴルフボールのディンプルと同じように自然に発見されたものだろう。

昔のゴルフボールにあんなでこぼこはなかったそうだ。しかしゴルファー達は新品のつるつるボールよりも使い古して傷ついたボールの方が飛ぶのを知っていた。そこで誰かがワザとボールに傷を付け始めた、というのがディンプルの起源だ。ディンプルのお陰でゴルフボールは人間の自然感覚をはるかに超えて飛ぶようになった。

ゴルフのおもしろさはその無類の飛距離のために倍増したが、同時に打ち方がややこしくなり、クラブもややこしくなった。すり減ってディンプルの無くなったようなボールをコースで使う日本人ゴルファーは少ないだろうが、ドライバーでナイスショット230と思ったところが幾らその辺りを探してもボールが見つからない。

誰かが「ここだここだ」と教えてくれたのはティーグラウンドの方にだいぶ戻ったところで、結局160しか飛んでいない。ディンプルの威力はそれほどすごい。

負帰還はアンプの出口から入り口に信号を戻すこと自体は正帰還と同じだが、信号を逆さまにして戻す。校長先生がマイクに向かって大声でしゃべる。その声がアンプで5倍になって出てくるとする。出てきた声の5分の1、つまりは先生の肉声と同じ大きさの信号分だけ逆転させて入り口に戻すと、信号は逆さまだから元の声と打ち消し合って消えてしまう。

つまり先生の声はアンプの入り口に存在しないことになる。そんな馬鹿なことと思われるだろう。確かにこれでは何のためにアンプを使うのかわからない。しかしそれでも先生の声は、小さいけれどスピーカから聞こえてくる。

それにしてもわざわざ大きくしたものを小さくしてしまう、10倍のアンプを3倍のアンプとして使うなら、始めから3倍のアンプを使う方が安上がりだと思うだろう。これを負帰還という。10倍のアンプを、電気代だけは10倍のアンプとして働かせながら、負帰還を調節して3倍の音を出すとき、それは3倍のアンプを使って出した音と同じ大きさの音になるが、同じ音ではないのだ。

音質が良くなる、肉声に近くなる。しかも回路部品の小さな性能の違いや変化に影響を受けないアンプになっている。これが負帰還だ。負帰還を発明したのはアメリカ人でなければならない。パワーをセンスにすり変えるという発想は如何にもアメリカ的だから。ホントのところは知らない。アメリカに渡る前日のイギリス人、というところだろう。

物わかりのいい人は、なるほどゴルフでも何でも目一杯より軽くやる方が結果がいい、と思うだろうが、それは負帰還とは違う。機械の性能は使用範囲で一定ではない。腹八分目というのと同じで、機械の性能も大体その辺りでもっとも高性能になる。

100ワットの電球は電圧を上げれば実はもっと明るくなる。しかし寿命は縮むし明るさに安定度がない。力一杯ゴルフボールをたたくのは100ワットの電球を170ワットの明るさで使うようなものだ。軽く使うというのはこのように機械をその性能のトータルとしての最高性能で使うことを意味している。

しかし負帰還はマシンを軽く使うわけではない。目一杯使う。それなのにパワーは何分の一しか出ない。無駄に見える部分が全て安定性の向上に使われる。それが負帰還の不思議さだ。たとえばゴルフのコントロールショットは決して軽く打つものではない。目一杯打っている。

プロはそれが出来る。彼らは負帰還技術を持っているのだ。それに対してコントロールショットはただ軽く打つものだと思っているゴルファーに上手はいない。

自動車を速く走らせたいとき、ただアクセルを踏みさえすればいいのは低次元の話である。自動車レースを見ていると、速く走るにはエンジン性能よりブレーキ性能が決め手なのだということをつくづく教えられる。

ブレーキパワーが十分でない車は限界速度で走れない。速く走るにはぎりぎりまでエンジン全開で走るわけだが、それが出来るかどうかは、その先にあるカーブを曲がるれるかどうか、つまりはブレーキの性能にかかっている。

負帰還は気分的にはブレーキを掛けながらアクセルを踏んでいる状態に似ている。エンジンブレーキを使って二速ギアで走れば首都高速も走りやすい、うるさいけれど。

10メートルのチップショットをするにも軽く打っては正確に打てない。ブレーキを効かせながらアクセルを踏むような感じで打っているはずだ。負帰還技術は持てるパワーを遊ばせない。ブレーキパワーとアクセルパワーの合計として、目一杯使うのだ。

テニスのサーブでもファーストサーブは目一杯打ってセカンドは軽く打つと誤解しているプレーヤが多いが、上手はファーストよりもよっぽどセカンドの方に力が入っている。ただファーストサーブは90パーセントのパワーをスピードに使い、残りの10パーセントをコントロールに使うのに対して、セカンドはほぼその比率が逆転するだけだ。つまりどちらも目一杯打っていることに変わりはない。

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