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前にも書いたが、クラブをアドレスしたときに、ソールが地面に吸い付くようにピタリと収まるクラブを見たのはミズノのインペリアルが最初だった。日本にゴルフクラブを作る工場が数えるほどしかなかった頃、ミズノという名前は今ほど知られていなかった。

ゴルフはもちろん、野球でさえ当時は矢羽スポーツのロゴが印刷されたバットしかなかった。藤沢の花火大会を自宅から楽しむのに最適な場所には今でも矢羽スポーツの末裔が住んでいる。当時、省線の鉄橋が神田川を跨(また)ぐところの真下に、明光ゴルフというゴルフクラブの製作所があって、小さな打席が設けられていた。打っても10メートルとは飛ばせないし、打席も3つか4つくらいだっただろう。

ここで作られたアイアンのライ角もまた輸入物と変わらずかなり立っていた。どこの製作所でも一様にライ角が立ち過ぎていて、かなりシャットフェイスでないと収まりが悪い。それからしばらく経ってミズノのインペリアルが出た。

今でこそ日本人の身長が伸びてきたから輸入物でも困らないし、こちらに合わせて作るメーカーも出てきたが、あの当時あんなにフラットなクラブを売り出すのには相当の勇気がいっただろう。ミズノには当時からマスターフラッグという入門モデルもあるが、あれは入門用と言うよりはプロ向きにしっかり作られていた。

ラケットなどでもそうだが、一番高いモデルはデラックスで実に味わい深く、華奢(きゃしゃ)に見せていてかなり頑丈に作られているが、選手の使うモデルはその一つ下の価格帯で売られるのがセオリーだった。

つまりプロモデルの上に本当に高級なのがある。プロモデルはもろに頑丈に作ってある。あの頃のミズノはマスターフラッグとデラックスの2種類のゴルフクラブを作っていたと記憶している。その最上級のモデルとしてインペリアルを作ったのだろう。

インペリアルが商売として成功したかどうかは知らないが、ミズノの技術屋に拍手を送りたい。新しい試みには勇気が欠かせない。天下のミズノになった今ではもはやそんな冒険は出来ないし、する必要もない。ミズノにしてもヨネックスにしても、創業当時の社長はすごかったわけだ。

ライ角がどれほどゴルフに影響するのか、なぜそれほどインペリアルに感動したのか、そこのところを簡単に話してみよう。

つま先下がりは打ちにくい、と言う。つま先上がりは楽だ、と言う。ゴルファーは間が抜けている。上手なゴルファーでも、日本人ならつま先下がりは難しいと思っている。そりゃ当たり前だ。ライ角の立っているクラブをつま先下がりで構えたらボールに当たらない。

しかしもしもライ角40度のアイアンを使っていたら、つま先下がりでアイアンのソールはピタリと地面に張り付く。ボールを打つことに何の不安もない。ただボールは右に飛ぶだろう。いや、それは言い方が間違っている。ボールは真っ直ぐ飛んでいるのだ。

飛行機だって自転車だって真っ直ぐにしか飛んだり走ったり出来ない。飛行機が右に傾いていれば、真っ直ぐ飛んでいても右に曲がるし、自転車も左傾斜のバンクを真っ直ぐ走れば自転車は左に動いていく。

ゴルフボールもライ角40度ならつま先下がりで地面に張り付いたソールから打たれれば真っ直ぐ飛ぶが、その真っ直ぐは当然右に飛ぶように見える。

どこへ飛ぶかは計算すれば済む。わからなければ「オイラーの贈り物」の中に、なぜだか知らないが飛行機の説明でそういうのが妙に詳しく書いてあった。真っ直ぐとは何かがわかるだろう。

ライ角の立っているクラブではそもそもボールがうまく打てない。最近のドライヴァーがフェアウェイで使えない代物になっているのと同じことだ。従ってライ角40度のクラブが普通のライで打てるならば、それを使うとつま先下がりは楽で、反対につま先上がりは実に打ちにくい。

背の高いヨーロッパの上級ゴルファーはつま先下がりよりむしろつま先上がりを恐れる。なぜかというと、元々無理をしてライ角の立ったクラブを使っていないからだ。普通に構えてソールの先が先に地面に当たるくらいのクラブを、腰を落としてアジャストするようなライ角のアイアンならば、つま先下がりは腰を落とさないでいいからむしろラッキーな話だ。

日本人とは逆なのだが、腰は落とせる。しかし背は伸ばせない。戦後の日本のゴルフ場はその多くが農作業方式で作られていて、ネギ畑の畝(うね)のように、雨ドイ型になっている。

大洗でなくてもティーショットを左に曲げるゴルファーは第2打がつま先下がりになり、右にスライスを打つゴルファーはつま先上がりになることになっていて、初心者はつま先下がりに出会うことが少ない。それで経験者がつま先下がりは難しいと嘆き、素人のうちは気づかない。

アドレスではアイアンのソールの先端がわずかに浮く、10円玉1枚くらい差し込める程度がいいと言う。インパクトではシャフトがしなって垂れ下がるからだ。これを机上の空論と言う。

プロじゃあるまいし、そんな誤差が問題になるようなゴルファーがダフリやトップをするわけがない。インペリアルの勇気に感動した理由がここにある。空論でも理論は理論なので、これと戦うには勇気がいっただろうと思うのだ。

つま先下がりが怖いなら、ライ角をもっとまともな角度にセットしろ。足腰に自身があるならば、今よりも5度フラットにしたアイアンを使えばゴルフはもっと楽になる、腰は疲れるだろうが。もっともそれは本当に上手なゴルファーへのアドヴァイスである。下手なのにうまいと思い込んでいるゴルファーはやめた方がいい。

ライ角はゴルフを決める。飛行機を飛ばす方角が決まるのと同じくらい大事だ。ライ角を現在よりもややフラットにすることは日本人ゴルファーがまともなゴルファーになることでもある。さらに言えば、フラットなライ角はボールの飛び方を穏やかにする。急激な変化を起こしにくくする。それはどのような打ち方のゴルファーにも当てはまる。

プロほどの技術があっても、大きなライ角はスイングの誤差を増幅することに変わりはない。誤差ゼロでない限り、大きなライ角に意味はない。インペリアルのコンセプトは40年たった今でもまだオピニオンリーダとしての資格を保持している。私はそこに敬意を表する。

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