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アドレスからバックスイングを開始しようというとき、ゴルファーの中にはちょっとだけクラブシャフトを目標方向に倒すというか傾けるような動作をする人があるが、それをフォーワドプレスと言う。

ニクラウスのようにはっきりわかるのもあれば全然しないように見える人もいる。クラブが軽くなって、最近はあまり目立ってするゴルファーはいない。ところが、全てのゴルファーがフォーワドプレスをしているのだ。

この小さな動作はバックスイングを始動するのに欠かせない。説明するのもはばかられるが、バッターが一本足打法で打つとき、ただ足を上げたらすぐ落ちる。誰だって、片足を上げろと言われて重心を変えずにただ上げたらすぐこける。

飛び上がれと言われてひざを曲げずにそのまま飛び上がるのは鉄人28号である。人間はホバークラフトでない。ヘリコプタやホバークラフトの動きがちょっと楽しそうに感じられるのも、始動時の動きが人の感覚と違っているからだ。

つまりフォーワドプレスがない。鉄腕アトムだってひざを曲げてジャンプしながら飛び立つ。お化けがひざを使わないのは当然だが、だからこそ普通でない感じを与えられるのだ。

フォーワドプレスは右足に体重を乗せるためのきっかけを作っている。ほとんどのゴルファーは何らかの方法できっかけを作る。なぜなら体重を右足に乗せたいからだ。ジャスティン・レナードのスイングが奇妙に見えるのはこのきっかけがほとんどないからで、つまり体重の移動が少ない。

一度左足に体重を掛け、その左足でちょっと地面を蹴って右に体重を乗せる動作を助けるのがフォーワドプレスだが、そういう形でフォーワドプレスをせずに、単に右足の沈み込みを使う手もある。

どっちかが低くなれば低い方に体重が乗る原理だ。二人で冷蔵庫を運ぶとき、階段があれば下側にいる人が苦しい。この手を使うゴルファーは、スイングのスタート時に文楽人形のような奇妙な動作をする。誰でも何人か知り合いがいるだろう。

フォーワドプレスをする際に、無理をしない限りクラブフェイスはやや開く。ヘッドの位置を変えずにグリップの位置だけが左に動くのだから、手首を折ってわざとシャットにしない限り、ピヴォットと同じで自然とヘッドは12時から1時の方向へと右に開く。しかしゴルファーはこの状態をアドレスではなくてすでにスイングが始まっていると考えるから、フェイスの開きは気にしない。

このフォーワドプレスでのヘッドの開きをあらかじめアドレスで済ましてしまうのが、ヘッドを開いて構えるゴルファーである。それでも必要なフォーワドプレスはしないわけに行かないが、そのときのヘッドの開きを省略している。ヘッドを開いて構えると、フォーワドプレスした場合に起こる自然なヘッドの開きがほとんどない。

それは間尺に合わないと思うだろう。どう構えようと、クラブを握っている部分だけがアドレスの位置から左へシフトすれば、それなりにフェイスはもっと開くだろうと、それは理屈だ。ところがこの理屈は通らない。かといって別段無理にシャットフェイスを心がけてフォーワドプレスするわけでもない。

彗星の尾は、太陽の近くを通過するときに急激に尾を振る。ゴルフスイングもアドレスからほんの30センチか40センチバックスイングする間に、フェイスの向きは一気に30度ほど開く、ように見える。

もしそうならないのならフェイスを無理やりシャットにしているのだから、それはやめた方がいいと、ポール・ラニアンはジーン・リトラーにアドヴァイスしている。(ポールでなくトミー・アーロンだったかも知れない。何分古い話だ。)

ともかくフェイスはスイングの始めのところで一気に開くが、その後はゆっくり開いて行く。彗星の尾も宇宙の果てから太陽に近づくときにはずっと太陽の反対側に流れている。太陽からの風があるからだが、それが段々太陽に近づいて太陽のそばをくるっと回るときには、尾の流れる方向が急激に変わる。

尾はいつも太陽の反対側に流れる。それはマラソンランナーが折り返し地点をくるっと回るときと同じだ。マラソンランナーの背中に吹き流しを付けたらわかる。

アイアンのヘッドを彗星の尾だと考えると話が早い。形も似ている。ボールという名の太陽に向かってヘッドは遠くから飛んでくる。尾は常に太陽の反対側になびいている。彗星の核が尾を引きながら太陽に近づく。そのころの尾(アイアンヘッド)は右になびいている。太陽(ボール)が左にあるからだ。

そしてついに彗星は太陽のそばまでやってくるが、そこで尾はくるっと方向を変えてボールをたたき、その後さらに回転する。実際には彗星の尾は太陽をたたかないが、尾の動きはアイアンヘッドの動きに似ている。こうしてクラブフェイスの角度変化はボールの近くで急激になり、遠くでは緩やかになる。

クラブを開いて構えるとき、フォーワドプレスをしてもほとんどフェイスの角度が変わらないように見えるのは、急激な変化の部分をあらかじめ済ませた後だからだ。

急角度でボールに向かうタイプのスイングほどインパクト近傍でのフェイスの角度変化が激しい。太陽にあまり近づかないで遠くを通過する彗星は尾の角度変化が緩やかになる。

つまりスイングが円形に近いゴルファーは飛距離は出ないがインパクトは安定する。それに対してくさび形のスイングではボールのそばでフェイスの角度が一瞬で大きく変わるからコントロールは難しいがヘッドのスピードは劇的に速くなる。

地球に彗星と同じ尾があれば、地球の軌道は丸いから尾の角度変化は穏やかだ。アイアンのヘッドが彗星の尾に見えてくると、ゴルファーはケプラーの法則でゴルフをしているような気になってくる。面積速度一定ならば、そりゃバックスイングで大きく引いてそこから直線的にボールを打ちに行く方が飛ぶなあと、妙なことに感心もする。

飛ばす方はこれでいいから、飛ばしたいゴルファーはケプラーを頼るのだが、コントロールの方は飛距離を無視できない事情もあってケプラーだけではまずい。それでゴルファーは偉大なケプラーに対抗していろいろな法則を編み出そうとしている。太陽風に打ち勝つ手首のパワーとか、万有引力が歪められる空間とか。そこがゴルフの醍醐味だ。

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