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スポルディングエグゼクティヴのアルミシャフトの少し前から始まって、永いこといろいろなクラブを見たり使ったりしてきた。その中には感動したクラブが幾つかある。ベン・ホーガン、ブローニングの505だったか忘れたが、まるでジガーのセットものみたいな不思議なデザインのアイアン、この二つはそのコンセプトのすばらしさに感動した。マクレガーのフェアウェイウッドに確か645とかいう、柿にオイルをしみ込ませたのがあったが、そのウッドは形の美しさに感動した。

私が今持っているアイアンはミズノプロ、ダンロッププロ、スポルディングのスポルディング、それに今使っているマクレガーは004という刻印だけの名無しのクラブだが、どれも材質がいいので改造に耐えられるから使っている。シンプルなクラブばかりだ。そんな数多くの見たり使ったりしたアイアンの中で、プロギアのCT-510というアイアンは私にとって謎のアイアンである。

このクラブを使ったことはないし、ずいぶん古いアイアンだと思うが、このクラブは非常に良くできている。どんなアイアンにも満足できない私のアドレスが、このアイアンだけ改造の必要無しにピタッと決まる。実に不思議なデザインなのだ。しかもどこから見ても普通のアイアンで、どんなになめるように見つめても理由がわからない。そこが不思議なのだ。

クラブの善し悪しの第一はまずそのコンセプトであり、それがデザインに現れる。ところがこのクラブはどう見ても普通だ。第二にクラブはグリップのフィット感も大切なのだが、CT-510のグリップは普通だ。

クラブの要素には他に色合いというのもある。ケネス・スミスやスタン・トンプソンのアイアンヘッドは真鍮(しんちゅう)のような艶消しの金色を帯びており、その柔らかな高級感のあるヘッドは遠慮がちに小型で、実に打ちやすそうな顔をしていた。

CT-510はメタリックのメッキではなく、いわゆるガンメタというくすんだ灰色で、スカGと同じだ。これは確かにいいが、それだけで私のアドレスが決まったとは考えられない。

ヘッドは当時流行の低重心で、多分その先駆けの頃作られたのだろうが、私はウォルター・ヘイゲン・ウルトラで育ったから、ヘッドの上方に厚みのある高重心アイアンが好みだ。ちなみに私は4台のノートパソコンを持っているが、ブブックを書くのには今でもデックのウルトラという古いWIN95のノートを使っている。

キーが安っぽくて軽く静かなところがとてもいいノートだが、このキーボードは東芝製である。ダイナブックのキーボードより遙かにいい。何のこっちゃ。さて、つまり重心のデザインがこのアイアンを謎のアイアンにしているわけでもない。ライ角は確かに適当だと思うが、ロフトは比較的寝ている。

流行を追わないのであれば、CT-510は今でも最高に美しいデザインのアイアンに見える。スワンネックのような新しい発想のアイアンやこのごろのよく飛ぶアイアンと比べないならば、このアイアンより美しいデザインのアイアンが生まれるとは思えない。

性能だけは時の流れの中で古くなっていくだろうが、どうやってボールを打とうかというゴルフスイングの核心部分に関して、このCT-510よりも進化したデザインは誰も考えつかないのではないか。

これがかつて売れたのか売れなかったのかは知らない。いいものが売れるわけではない。いいと思われるものが売れるのである。誰がそう思わせるかは別の問題である。

私はCT-510を一度も使ったことはない。普通いいなと思うアイアンは使ってみたくなる。使ってみて確かめたくなるものだが、CT-510は全くそういう気にさせないほど良くできている。使わなくても最高に使いやすいはずだと信じさせるのはなぜか、それがわからない。

ただ一つだけ気付いたのはソールだ。このクラブは底面の厚みがかなりあって、ロフトの立っているロングアイアンになるとフェイスの右側にソールの膨らみが見えてくる。よく見るとその膨らみはトウの方からヒールまであまり厚みを変えずに続いている。これはベン・ホーガンのセオリーと同じだ。

伝統的にアイアンはヘッドのキックを効かせるために先を重く作る。たとえソールに厚みを持たせるとしても、ヒールの方は薄く作るのが定石だ。ところがCT-510のソールはヒールまで厚みがあるので、その性質は今流行のウッドスタイルのアイアンに近い。

そういうデザインはトルクが少ないからボールは曲がらない。使ったことはないがアドレスしたことはあるから、その瞬間、バランスの良さが手に伝わったのだろうか。

こういうクラブは熟練のゴルファーにはつまらないという印象を与える。簡単に打てる代わりに距離が出ない。熟練のゴルファーは上手に打つと真っ直ぐ飛んで距離が出る代わりに、打ち損じれば曲がって距離も出ないクラブを好む。そのスリルを楽しむというか、下手くそが下手くそでなければおもしろくないわけだ。

30年ほど前にテニス界に革命が起こった。デカラケの登場である。プリンスが打球面の非常に大きなラケットを作った。初めはウッドだったが程なくグラファイトになり、このラケットは30年近くたった今でもそのままプリンスグラファイトの名で全く同じモデルが売られている。

フレームに沿って金色の細いラインが引かれているが、それが一本のものは古く、何本かあるものは新しい。そのくらいの差しかない。30年以上同じ形のまま売られ続けるラケットなどあり得ないし、ゴルフクラブでも考えられない、生きた化石である。

おもしろいことにプリンスグラファイトというラケットはテニス界を席巻し、ほとんどのプロが使っていたが、世界ランクのベストスリーの選手にだけは決して使われることがなかった。

ベストスリーに名を連ねる選手は年月とともに変わっていくのに、である。つまり世界ランクベスト1000の大半が使っているのに3人だけ使わなかったのだ。(マイケル・チャンがランク3位以内の時があったら、彼だけが例外になる)

ゴルフにも似たようなことは起きている。アメリカでピンやリンクスを多くのプロが使っていた頃、ランキングの上から数人は使っていなかった。テニスでもゴルフでも、トッププレイヤは難しそうな古いタイプの道具にこだわっていた。メイカーとの契約という財政的必要を感じなかったこともあるだろうが、他の事情もある。

上手なアマチュアは世界ランクのトップと似たような考えを持ってゴルフを楽しむ。しかしプロは生活がかかっているから、連戦する過酷なトーナメントを生き抜くために一番楽な道具を使う。神経を使えばいい結果の出ることもある道具より、いつでも楽にそこそこの成績が保証される道具を使う。デカラケはまさにそういうラケットだった。

何十年か過ぎて、今ではデカラケしか存在しなくなった。古いタイプのラケットはもはや売られていないが、ややヘッドの小さなラケットは学生に使われ出してる。しかしそのラケットも元のサイズに比べたら遙かに大きいことを彼らは知らない。

プロギアのCT-510はゴルフ界のプリンスグラファイトになってもおかしくなかったアイアンだと思っている。ただそのコンセプトをマニア向けに味付けしたのが逆効果になったのだろうか。

ピンアイは画期的な形をしているし、多分打ちやすいクラブだろう。しかしその打ち易さのコンセプトはCT-510と比べたら次元が低い。私はプロギアの宣伝をしているわけではない。売っていないものは宣伝にならないし、そもそもプロギアという会社が何なのか、その素性さえ知らない。

CT-510を作った本人が全てを知っていてこれを作ったとは思えない。多分偶然か、あるいはゴルフを知らない天才的デザイナーの直感だったのだろう。もしもプロギアがCT-510を確信して作っていたなら、形を変えずに今でも売り続けているはずだ。それだけの価値があるアイアンだと、私は信じている。

CT-510の唯一の問題は飛距離だろう。この形のまま飛ぶクラブにするのは至難の業だが、不可能ではない。しかしPGAの飛距離に関する規制方法が微妙だ。

飛距離が問題なら、直接飛距離を規制すべきで、反発係数による規制はゴルフクラブの進化を妨げる。ゴルフマシンをある一定の速度にして、その速度で何ヤード以上飛ぶクラブは規制する、という方法が正しい。

飛距離をコントロールにすり替える技術は、つまりパワーを技術にすり替えるというアメリカが開発したアメリカの誇るべきお家芸である。これを拒否するのはアメリカらしくないし、どう考えても正しくない。

CT-510に反発係数を含めたあらゆる飛ぶ技術を詰め込んでも、ヘッドの先を重く作ったコンヴェンショナルなキックで飛ばすアイアンより飛ぶことはない。しかし真っ直ぐ飛ぶという点に関しては桁違いの性能を示すはずだ。

ゴルファー自身が飛ぶスイングを研究し続けるのが自然なことであるのと同様に、クラブ屋が飛ぶクラブを模索するのも自然である。ゴルファーが真っ直ぐ正確に打てるスイングを探すように、クラブ屋が簡単に真っ直ぐ飛ぶクラブを研究するのも自然である。

これを妨げることは間違っている。飛距離の規制は遅すぎた感があるほど必要不可欠な決断であるが、方法を誤れば、規制が進歩を妨げることになり、それはゴルフがその未来を失うことに他ならない。

ヨネックスのR-7とR-22というラケットは復刻版が出たほどのラケットである。CT-510に復刻版が出ても、私は驚かない。それくらいの信念を持ってクラブを作らなければクラブ屋として生きた意味がないだろう。筆者

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