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アメリカのトーナメントを見ていると、些細なことでオフィシャルを呼んでいるのをしばしば見かける。左足がちょっとカート道にかかっただけで大騒ぎをしているのを見て、情けない奴だと思った。そんなもの足を少しオープンスタンスにするだけで十分打てるだろうが。

ボールは自然のままプレーするのが基本だし、ボールを拾い上げれば全てが変わってしまう可能性がある。足がカート道にかかるのは確かに困るが、しかしボールを置き直したら、もしかすると足の問題を解決する以上の有利が生じてしまうかも知れない。それはルールの趣旨に反しないか。

アマチュアがボールを動かさないで打つ場合、ルールを知らないから触らない方が面倒がないと考える場合もあれば、ルールぎりぎりまでとやかく言うのはいかにも下品で紳士的ではないと、そう思うからノータッチでプレーを続ける場合もある。

プロは生活がかかっているからあんなにごねるのだと、そう思っていた。ところが、それは大いに間違っていた。ルールが唯一の良心であり約束事である社会では、ルールの守り方は私たちの想像を超えて厳しい。

車で道路を走っていて規制速度と言えばそれは最高速を表すとハナっから思いこむのはルールというものの本質に慣れていない田舎者の考え方に過ぎない。

最高速度の規制があるのと同じように、最低速度の規制もある。自分はもっとゆっくり走る方が安心だからと、規制速度以下で走ることは許されない。最低速の規制ならばそれ以上の速度で走らねばならないのだ。

日本では最高速度の規制が30キロの道路を30キロで走るドライヴァーは皆無に等しいが、30キロで走るドライヴァーを追い越して40キロで走るドライヴァーはそれが自然な速度だと信じている。

しかし、彼を追い越して70キロで走るドライヴァーは暴走だと思う。その暴走車が自分の子供をはねて殺したら怒りがこみ上げるだろうが、規制速度30キロで走るドライヴァーの子供が、40キロで走る車にはねられれば同じ種類の怒りがこみ上げる。

この怒りは子供が死んだことにあるのではない。誰でも必ず、「ルールを守らない人間に殺された」と言う。だから怒るのである。ルールを守っている車にはねられて死んだ場合、悲しみは同じでも、怒りは出てこない。こみ上げた怒りは悲しみよりもはるかに大きな苦痛を与えるだろう。

日本人はルールを越えたら皆同じだという事実にまだ気付かない。「そこ」まではしない、と言う人の「そこ」までが、昔はほぼ一様だったからほとんどトラブルは起こらなかった。「日本人」であること自体に、統一された品質基準があったようなものだ。だからルールはいらなかった。

ところがこの40年で日本が変わったらしく、そういう品質基準は崩壊した。だからルールの意味が大きくなった。ところがその変化に誰も気づいていない。暗黙の品質基準が暗黙のうちに無くなったということは、「そこまで」はしない、という「そこまで」が人によってかなり違ってくることを意味する。

それに気づかないため、ルールは昔同様守らないし、かといってもはや品質基準はないのだから、実に恐ろしい。本来、ルールが不当だと思うならば、ルールを作った組織と戦えばいいのに、ただまじめにルールを守る人と戦おうとする。

かえってルールを守っている人の方が、そのルールは間違っていると組織と戦っている。左足がカート道にかかった場合、そのまま打っても違反ではない。しかしそれで失敗しても決してそのせいにしないという特別な信念がなければ、ルールに従って処置しなければならない。

無論処置をしないで失敗しても誰も助けてはくれないのだが、それはルールに従わなかった罰だと考えるのが正しい。そうなると、誰でもルール通りにボールを動かすだろう。ゴネ得という話とは全く異質な、正義なのである。

自分に都合のいいルールを使うことを憚(はばか)り、自分に都合の悪いルールに従うのを潔(いさぎよし)という考え方は、「普通」でなかった昔の日本人だけに許される誇りである。

「普通」の人間になってしまった日本人にそんな優雅な気分を味わう資格はない。おこがましい話だ。ルールブックにはルールの範囲内で自分が最も有利になる処置を取れ、と書いてある。それがルールであり、普通の人々はそのルールを守らねばならない。

私自身は滅多にボールを拾い上げない。それは決して失敗した後の言い訳の種を作るためではなく、その方が気分良くプレーできるし、それだけ結果もいいからに他ならない。

私は30キロ道路を30キロで走る、それと同じことだ。しかし普通の人にはそんな勇気はないだろうから、やっぱりルール通りに目一杯自分が有利になるようにボールを動かす方が自然だろう。それが自然に感じられるようになると、ルールを破るのでなく、ルールと戦うようにもなってくる。

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