« 0044 ラバーグリップを切る | トップページ | 0046 特異点 »

ゴルフに限らず、およそスイングの話になればタメということが出てくる。バックスイングそのものがタメになる場合もあれば、スイングの助走に過ぎない場合もある。ジョン・デイリーのバックスイングは非常に大きいが、彼のバックスイングに大きなタメはない。彼の大きなバックスイングは、言わば助走であり、百歩譲ってシャフトにタメを作る技術である。

ヒューバート・グリーンはタメだけでボールを打ったが、バックスイングはコンパクトで、まごまごしていると見損なうほど小さかった。ヘイル・アーウィンは全身バネで出来ている典型的なタメ打ち型ゴルファーだ。ただし彼の姿にだまされてはいけない。彼はあまり大きく見せないが、意外に大男である。

ジョン・デイリーのバックスイングは大きい。大きなバックスイングを取ることは助走路を長くすることである。それはタメを作ることではない。バックスイングでタメを作る場合にはバネの大きさに限りがあるので、あまり大きなバックスイングにならない。ジョン・デイリーと同じようにオーヴァースイングで飛ばすゴルファーは何人かいるが、一般的にプロのロングヒッターは腕力勝負が多く、バックスイングは案外小さい。タメとは何だろうか。

テニスで速いボールに振り遅れるプレイヤーがいる。特効薬のアドヴァイスは足を踏み出してボールに突っ込むことである。それは妙だと思うだろう。ボールが速くて困っているのに、こちらから突っ込んでいったら、相対的にボールの速度はもっと速くなってしまう。ところが、足を踏み出すと腕とラケットが置いてきぼりになり、タメが自然と出来る。

足を踏み出さずにラケットを引く、つまりバックスイングをすることでタメを作ろうとすると、間に合わないのだ。一般的にはバックスイングでタメを作るのは簡単ではない。誰でも幾らかは作れるが、大抵はスイングするための助走に過ぎない。

体重60キロの人が、時速20キロで走っていれば、それはエネルギーを持っている。ぶつかれば何かが壊れるのはそのエネルギーのせいだ。それも一種のタメである。しかしいわゆるタメではない。風船ヨーヨーは水の入った風船にゴムヒモが付いている。風船を下に投げるとゴムの張力で戻ってくるが、手を動かさなければ振動しながら減衰して止まる。

このときエネルギーはゴムに貯められている。これをタメという。もちろん風船には重みがあって、それが動いていれば風船はエネルギーを持っている。ゴムのエネルギーと風船のエネルギーは息を吸ったり吐いたりするようにお互いの間を行き来している。

タメは弾力のあるものを伸ばすことで作られる。あるいは縮めても同じだ。ゴムヒモの一方をどこかに引っかけて、その端を持って走ればタメができるが、ヒモの端がどこにも止められていない、ただのヒモを持って走るだけではタメは出来ない。

バックスイングで、すでにゴムヒモを引っ張り始めているのならば、そこにはタメが生まれるだろう。また一方で、バックスイングではただクラブをトップまで持って行くだけで、ゴムヒモを引っ張らない場合もある。

それなら何のためにバックスイングするのかというと、バックスイング無しではボールが打てないからだ。それは飛行機が助走路まで歩いていくのに似ている。助走路のスタート位置まで進んで、管制塔の指示を待つ。

バックスイングでタメを作れるのは弓形スイングの出来るゴルファーに限られ、一般的には難しいことだ。だからダウンスイングでタメは作られる。テニスで言えば足を踏み出したときにタメが作られる。確かに妙な話だ。

ゴルフスイングを超スローで見ると、スイングはトップで随分長い間じっとしているように見える。実際に映像は止まっていないのに、まるでポーズが掛かったようにずーっと動かない。

しかしゴルファー自身は止まっているつもりはないだろう。何をしているのか。タメを作っているのだ。ダウンスイングの始まりは、長い間トップでじっとしていることから始まる。その間、体はタメを作り続けている。

机の上におもりを置いて、それにゴムひもをつないで引っ張ると、ゴムは伸びるがおもりは机との摩擦でしばらくは動かない。普通のタメはこうして作られる。

それがある限界を超えた瞬間、おもりはついに動き出す。ゴムヒモはおもりを一気に引っ張るだろう。それがタメの戻りである。人差し指でおはじきをピンとはじく。そのスピードは人差し指を親指に引っかけていなければ決して生まれない速さだ。それがタメだ。

バックスイングでタメを作ってしまう人もいるが、ダウンスイングが始まってからタメを作り始める人が圧倒的に多い。それをダウンスイングと言っていいかどうか、それは微妙だが、まさかトップオブスイングでタメを作るというのも妙だ。つまりバックスイングイコールタメという言い方は正確な表現ではないし、ほとんどウソ臭い。

テニスのグラウンドストロークはラケットを引いて構えた時、そこにタメはない。ボールに合わせてバックスイングするプレーヤーはバックスイングでタメを作るが、練習量が余程豊富でないと振り遅れる。

だから普通はバックスイングを早く済ませ、そこから打ち出すことを勧める。この場合タメはフォワードスイングの始まり、ゴルフで言うダウンスイングの始まりで作られる。トップでタメを作るというのと全く同じだ。

クラブを背負って、トップオブスイングの状態からスイングをスタートさせることは可能だ。つまりそれはバックスイングそのものが作るタメではないタメが作れることの証明である。

バックスイングでタメを作ると言うプロゴルファーの多くは、しかし実際にはダウンスイングの始めでタメを作っている。どこの力で打っているのかわからないような、それでいて良く飛ぶという不思議なスイングのゴルファーだけが、バックスイングでタメを作るタイプだから、ほとんどのゴルファーはダウンスイングでタメを作るタイプだ。

タメはただ一種類ではない。本当は一つかも知れないが、細かな分類をすれば、ほとんどのゴルファーはバックスイングでさほどのタメを作らない。進歩を考えると、バックスイングで作るタメが増えていくことがスイングの進歩なのかも知れないが、それでスコアが良くなるとは限らない。

タメについての平凡な話

私の話に普通の話は少ない。タメの話にしても、私の話が役に立つレヴェルのゴルファーはほとんどいない。大抵はもっと平凡な話で事は解決するだろう。一般的に言って、バックスイングで作るタメは普通のゴルファーには困難だ。しかしほとんどのゴルファーは、ダウンスイングで必要十分なタメをすでに作っている。

しかしそのタメは70パーセントしか使われていない。これを全部使うことを考える方が、タメをもっと増やそうという努力に勝る。プロの目から見れば、今使えばいいのにわざわざ少し残しておくような、その不思議なタメのロスを無くす方が、タメを増やすよりはるかに簡単だ。

運転歴の長い人なら、普通の状態では思った通りの位置で止まるようにブレーキを踏めるだろう。ところが速度が100キロではそうはいかない。100キロで急ブレーキを踏んだ経験がないからだ。たとえ40キロでも、雪国のドライヴァー以外は、凍結した路面で思い通りに止まることは出来ない。

プロが見ると、普通のゴルファーのスイングはタメを使い果たす前にボールを打ってしまうように見える。タメを使い切るのは大抵ボールよりも50センチほど先だ。そこでヘッドが最高速度を出している。このズレはちょうどブレーキの掛け具合に似ていて、もう少し早く踏んでいれば、とプロは思う。

だからプロは、ボールの50センチ手前にボールがあるつもりで打てばいい、とか、インパクトで手を止めてしまえ、というような意味合いの話をせざるを得ない。しかしそれだけの話でうまく行くケースはまれだ。そこでいろいろなイメージを思い起こさせようと努力する。しかし全ては結局同じことを伝えようとしている。

スイングの位相ずれは自然のもので、F-1の車に素人が乗ってシューマッハの気分でアクセルを踏めば、ハンドルを切ろうと思ったときにはすでにカーヴを真っ直ぐフェンスに向かって飛び出し、たぶんフェンスに激突している。

全く同じことがゴルフスイングのタメの使い方で起きていると考えれば、素人はともかく、教えることに疲れたプロの気が休まる。これが平凡なレヴェルのためのタメの話である。タメ以前の、タメになる話だ。

タメを増やすことよりもすでにあるタメを使い切ることを考える。それにはバックスイングという名の助走を増やすのが簡単だが、助走がタメになってはいけない。タメを増やすために助走を増やす、という思い違いをしてはいけない。

走り幅跳びでも高跳びでも、好きな助走距離があるだろう。ゴルフにもある。素人は自分に適した助走距離を取らない。助走をタメと勘違いするから、体が苦しがって助走距離が小さくなる。

ただ単にバックスイングを大きくするだけなら苦しくも何ともない。それこそが助走だ。ダウンスイングはすでに飛んでいる状態である。トップオブスイングの状態でタメが作られる。だからトップオブスイングに時間がかかるのだ。

これが槍型のタメであり、ごく一般的なものだ。弓形のゴルファーは全く違う方法でタメを作るが、弓形の使えるゴルファーは槍型を知っているから間違えることはない。

ゴルフボールはどう打っても構わない。間違ったスイングなどという言葉は存在できない。そういうレッスンは非常に頭の悪いアホが思いつくことだ。ただ、鍋と蓋(ふた)が違っているだけの話を、大げさに言って商売にするのは詐欺に等しい。

普通の社会では、練習しようと思う動機を大きく出来るレッスンほどある意味でいいレッスンだから、誇大広告も犯罪とは言えない。しかし体格や筋肉の付き方によって最適なスイングは異なる。ゴルファーの性格によっても最適なスイングは異なる。

輸入物が高級だとは限らない。日本のクラブメーカーが日本人向きのクラブを作っているとも限らない。すべては自分で考えるしかない。

« 0044 ラバーグリップを切る | トップページ | 0046 特異点 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 0044 ラバーグリップを切る | トップページ | 0046 特異点 »