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身長170センチのゴルファーが使えるアイアンの長さの限界は100センチである。インチにすれば約39インチになるが、これは一般に使われている3番アイアンの長さにほぼ一致する。この長さに決めた人が歴史的に存在するわけではない。

以前、アップライトスイングとフラットスイングには区別がなくて困ると書いた。どこからフラットなのか、どれだけ立てるとアップライトなのか、スイング平面の角度では決められない。つまり基準がない。しかしゴルファーは人のスイングを見るとき、フラットだとかアップライトだとか区別するし、その判断は大抵誰でも同じになる。

ゴルファーはウッドを持つと自然にフラットスイングで打ち、ロングアイアンはショートアイアンからの付き合いでどうしてもアップライトに振ろうとする。3番アイアンはその微妙な境界線上にあるから、ゴルファーは悩む。同じスイングにこだわると、3番アイアンがクローズアップされる。

別にアイアンとウッドのスイングが同じでもあるいは違っても、そんなことは大きなお世話だし、どっちでもいいのだが、気分的にハッキリしている方が迷わない、ということはあるだろう。それでゴルファーはフェアウェイウッドのスイングには3番アイアンの場合ほど悩まない。

3番アイアンを含めたロングアイアンが苦手だというゴルファーが存在するのには原因がある。身長に余裕のあるゴルファーについてはその原因も書いたし、解決策もすでに書いた。しかし身長が170センチあたりのゴルファーにはもっと重大な原因があり、それに気付いているゴルファーは少ない。

私はこの何十年の間に3番アイアンのヘッドを軽くしたり重くしたりをずっと繰り返した。またライ角を極端にフラットにしたり逆にアップライトにしたりした。他のクラブの改造と比べると桁違いの回数、軽いヘッドと重いヘッド、フラットとアップライトの間をさまよい続けていたのはなぜだったのか。

たとえば普段3番アイアンを使えないゴルファーにライ角をスプーンと同じくらいフラットにした3番アイアンを渡せば、大抵「こりゃ振りやすい」と言うが、本人になぜだかはわからない。無論ライ角がフラットになっているのはわかるが、だからどうして打ちやすいかはわからない。ここに3番アイアンの謎、引いてはフラットスイングとアップライトスイングの秘密が隠されている。

簡単に言えば、シャフトを短く持ってかがみ込んでパットをするゴルファーは全てフラットスイングである。シャフト自体は真っ直ぐ下に垂れているのだから完璧にアップライトであることは疑いようもないが、しかしスイングはフラットなのだ。

柱時計は直立しているがその針はフラットスイングで、軸の回転をダイレクトに受けている。一方振り子には本質的に軸はない。点で支えてあるものには中心があって軸はないのだ。柱時計の振り子には実は軸がある。だから同じ道を行ったり来たり出来ている。コリオリの力を軸が押さえ込んでいる。

ゴルフスイングは腰の回転を利用するが、利用の仕方は様々で、たとえばボーリングのボールを投げる場合でも腰は使うのだが、ボールの転がる方向と腰の向きを考えると、どこでどう使っているのかわかりにくい。

腰の回転をダイレクトに使うのがフラットスイングであり、間接的に使えばアップライトスイングになる。道路工事現場で人形の左手が旗を上下に振っている。モーターの軸から見ればフラットスイングなのだが、水平に回転する腰を使っているわけではないから人間的に見ればアップライトだ。

最近アメリカでは、腰を回す量を少なくして上体のねじれだけ増やす方が飛ぶという話をもっともらしく映像などで紹介しているが、信じてはいけない。それはゴルフスイングをアップライトなものして考えた場合の部分理論に過ぎない。しかし部分理論としてそれは正しいし、進歩である。

アメリカは常に素朴で誠実である。やってみて確かなことはすぐに主張し、実践する。それがトータルで正しいかどうか、そんなことは先にならねば誰もわからないのだ。そしてそのうちにこれが部分理論だったということに気付き、また胸を張って公表するだろう。このやり方には馴染めないが、間違っていない。

日本のようにトータルで正しいかどうかとことん検証してから公表する、というやり方は見方によれば傲慢である。しかもその間に考える対象そのものが意味を持たないほど古くさくなってしまうという事実には無頓着で、それは相当迷惑な話だ。それでは永久に新しいものを見つけることも、正しいことを見つけることも出来ないだろう。

いつでも古くさい過去の遺物としての「正しいもの」と暮らしているわけだ。しかし過去の遺物のすべてが、時間の流れの中で果たして依然として「正しい」とは考えられない。

アップライトに振る場合、腰をねじらなければどこの力で打つかというと、私が前に書いたことのある妙な話、あの、左肩の後ろだ。アメリカの部分理論は結局はそこにある背筋で打てと教えている。私が書いたとおりそれは妙に気分のいい打ち方であるし、それが一番飛ぶと理論が言うなら、うれしい話だ。ただ私自身はフラットスイングなので、とりあえず使うことはない。

さて、アップライトに振りたい気持ちは真っ直ぐ飛ぶと思うからだが、クラブフェイスの幅はわずか7センチほどであり、シャフトの長さは100センチ近い。7センチの幅しかない鏡と、100センチの幅がある鏡を、300メートル先の目標に正確に向けろと言われたら、7センチの幅ではかすかに動いただけで相当狂うからなかなか目標に向けきれない。

人の目と目の間隔は7センチほどだが、それだけあると約600メートル先に置かれたビンと、そのすぐそばの、601メートル先に置かれたビンのどちらが奥にあるか区別できるが、もしも人の目の間隔が100センチも離れていれば、10キロ先でも区別できる。もっとも視力が追いつかないだろうが。

つまり、ある程度まではアップライトに振る方が正確な方向性が出るが、それ以上になると、フラットスイングの方がはるかに精密な方向が出せる。パターのフェイスが1メートルの横幅を持っていれば、実際それでは打てないにしろ、7センチ幅のパターを目標に向けるよりはるかに簡単だ。シャフトの動きが正確にわかるならば、シャフトが真っ直ぐ目標と正対した時インパクトすれば、幅7センチのヘッドより劇的に精密な方向性が出せる。

無論スイングの精度がそこまで行くかどうかは別問題だから、一般的にアップライトに打つことの有利は否定できない。アップライトは水車のようにスイングが縦方向にリニアで、水車の羽さえ真っ直ぐ取り付けられていればいつでも真っ直ぐ打てる。

フラットスイングは巨大な時計の文字盤の数字の上にボールを置いて、それを分針が回って来て打つようなものだから、軸が動いたり針が曲がったりすればたちまち方向が狂う。しかし分針が長いとよく見えるので、正しく動かせるならかなり正確な方向性が出せるだろう。それは小さな水車の羽より確かだ。

プロゴルファーはロングアイアンの壁を練習量でこなしてしまっているから、本質的なところを知らない。実はスクエアグリップがそれなりにいいのはアップライトスイングに限られている。スクエアグリップとアップライトスイングは言わば一組なのだ。

クラブをフラットに振るとき、スクエアグリップはその意義を失うのだが、それを知らないプロはフラットスイングのゴルファーにスクエアグリップを使わせるという理屈の通らないことをする。

練習量で何とかクリアしている非物理論理的スイングを素人がマネ出来るはずがない。スクエアグリップでフラットスイングが出来ないとは言わない。やろうと思えば何だって出来る。ただ少し無理があるので、プロの中にも悩んだ人はいるだろうと思う。

ゴルフ界には女性は左手をストロングで握ってもよろしいというコンセンサスがあるが、その理由が女性は男性よりも非力だからだというのはウソだ。その真相は女性の身長が男性より低いからに他ならない。

背が低ければフラットに振ることが多くなる。フラットスイングにスクエアグリップはなじまない。出来ないことはないが、正しくはない。それで女性はストロンググリップがいいのだ。非力だからではない。逆にストロンググリップはフラットスイングのゴルファーは使うべきだが、アップライトスイングには似合わない。それに飛ばしたければスクエアグリップの方がストロンググリップより飛ぶ。

同じスイングで全てのクラブをこなしたいという気持ちは立派だが、黒の墨だけで描かれる水墨画は、それはそれでとても美しいが、それが無限の色を駆使して描いたものよりも必ず美しいという保証はない。

シンプル・イズ・ベストというのは、複雑さに押しつぶされた人々が口にすべき言葉ではなく、その複雑さに挑んでいる最中の人々が発する雄叫びである。

アイアンの長さは実にうまくできている。身長が160センチに満たない女性ゴルファーは女性用のアイアンを使うのがいいし、100センチを越えるクラブは無理をしないでアイアンであれウッドであれフラットで打つ方がいい。当然それはストロンググリップでなければならない。

簡単に3番アイアンを打ちたいならフェアウェイウッドのようにフラットに打つ。左のグリップはストロングにする。しかしライ角がそれを許してくれないので、あきらめるしかないのが普通のゴルファーである。それで猛練習して無理矢理アップライトで打てるようにする。これが一般的な話で、だからロングアイアンは難しいということになる。

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