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科学的解明の遅れた分野では、占いや迷信がはびこる。ゴルフもそういう世界の典型だ。たとえばアップライトスイングがいいだとかフラットがいいだとか、そういう言葉をズーズーしくも平然と使うゴルファーやレッスンプロがいるだろうが、どこからアップライトなの?

シャフトの長さが同じなら、小柄な人と大柄な人ではスイング平面の傾きがいくらか変わるのが自然だが、こういう場合、アップライトとフラットに区切りは付けられない。確かに区切りは無くても事実はある。

しかし何が事実か。ものが滑らかに増大したり減少したりするときには区切りはないが、1で折り返すとか、0で逆転するというような場合、その点を特異点という。特異点があれば、区別が付く。

マラソンには大抵折り返し地点があるので、それで初めて行き帰りという表現や前半後半という言い方が出来る。しかしマラソンランナーにとっては、ただひたすら走るだけで、行きも帰りもないかも知れない。つまりランナーにとっては、たとえ自分自身の特異点があるにせよ、それが折り返し地点とは限らないのである。

小柄なのにアップライトに見えるという、謎めいたスイングを時々見かける。もしもそれが本当で、そこを詳しく研究し、アップライトとフラットの、スイングの仕掛けの違いを証明できれば、両者は完璧に区別が付くだろう。実際アップライトとフラットという言い方はスイング平面の角度とは無関係である。

またたとえばパットはパチンと打つのがいいとか、それとも振り子のように滑らかに打つのがいいとか、論議が起こるとする。「パチン」と「滑らか」の分かれ道はどの辺?違いは何?ゴルファーはそういうことが決まる前に、どちらがいいかを議論する。

トランジスタを使ってアンプを作るとき、最大の出力を出すために流す電流値と、最小のノイズを実現するために流す電流値は同じでない。どうしてそんな使いにくいディヴァイスを製造するのかはまた泣ける話なのだが、とにかく大きな出力でしかもノイズの少ない製品を作らねばならない場合、どうするか。妥協する。

パットの技術が方向性と距離感で出来ていると仮定する。たまたま方向性に優れた打ち方が距離感には不向きだったとか、その逆だったという時、どちらの打ち方が正しいと言い合いをしても意味がない。妥協するか、さもなければもっといい打ち方を見つけるしか道はない。

ゴルフは多くのスポーツの中で際だって宗教色の強いスポーツである。それだけ非科学的なので面白いという見方もある。しかしだからといって神学や心理学でゴルフは進歩しない。ちなみに心理学は立派に学問だが、残念ながら過去のわずか数人の偉大な心理学者の業績を翻訳しているに過ぎない学問に落ちぶれている。

心理学最大の問題は、心理学をやりたいと思う人間が、もっともそれに不向きな人間だという必然的パラドクサにあって、それは精神科医のケースとやや似ている。

星座を愛する天文観測坊やが天文学者になるのではない。しばしばおよそ星の輝きなどとは無縁のリアリストが優秀な天文学者として名を馳せる。実験物理学者ばかりで一人の理論物理学者もいなければ、物理学はここまで進歩しなかった。

特異点というのは、しばしば極限値である。最大値や最小値はどちらも無限の彼方に消え去ってしまいやすいが、特異点は消え去らない。少なくとも無限に大きなグラフ用紙は作れないが、小さなグラフ用紙のどこにでも、特異点は作れる。

無限はどれもその先を見ることの出来ない怪しげな世界だ。特異点も無限小を考えれば同じことだが、目の前にあるから気分的に楽だ。

違いを説明するのに特異点は便利な道具である。何かを区別しなければならない状況では、区別できるはっきりした理由を見つけだすか、さもなければ特異点を見つけることだ。ただし悪用はいけない。わけの分からぬところを特異点にしてしまえば説明がいらない、というのは困る。

アップライトとフラットに本質的違いがあるなら、区別する理由になる。もしもなければ、特異点を探す。それもなければ、誰か偉い人が勝手に角度を決め、それを特異点として、それ以上はアップライトでそれ以下ならフラットだ。しかしそれでは特異点の証明が、ない。偉い人のハンコが押されているばかりだ。

ゴルフにはもっと大事な特異点もある。インパクトだ。ゴルフはどこかを狙ってボールを打つから、インパクトという特異点のない滑らかなスイングでは困るはずだ。だから普通のゴルファーは滑らかで一様なスイングの中に、何らかの形でインパクトという特異点を作り出さねばならない。スイングを語るゴルファーに愛を!

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