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IBMのチェス専用コンピュータは年々強くなって、今ではこのマシーンに勝てる人間を探すことが難しい状況になっている。ふと、もしもゴルフコースにボールやクラブのテストをするためのゴルフマシーンを持ち込んで人間と勝負させたらどちらが勝つだろうかと考えてみた。きっとアマチュアゴルファーはかなわないだろうが、だからといってタイガー・ウッズに勝てるとも思えない。

人間の代わりをするマシーンを作るときの基本は、人間がその動作時に何をしているか調べ尽くすことである。どんなつまらないことでも見落とすわけにいかない。マシーンはそれがわからないと動けない。コンマとピリオドを打ち間違えただけで、コンピュータは暴走する。つまり人間にとって馬鹿馬鹿しいほど簡単なことまで調べる必要に迫られる。

人間が人間として人間を考えているときには甘えがあるらしく、徹底的に調べることが出来ない。マシーンを作るとなれば、それまで気付かなかったことが見えてくる。タイガーに勝つマシーンを作るためには、実はタイガーが何をしているのか、その全てを知らなければならないのである。それは途方もない大仕事に違いない。

タイガーのスイングを解説するなどという話は、タイガー・ウッズの全体から見れば極めて単純な部類の、簡単で些細なことだという事実にすぐ気付く。彼に勝つマシーンが作れるならば、もっと安上がりに、体力のある人間を選んで教えれば同じものが作れることにも気付く。

IBMのチェスマシーンには、チェスの世界チャンピオンの生涯獲得賞金を遙かに越える費用がかかっているが、とりあえずのゴルフマシーンは人の形をしていない。だから作るのは簡単だが、それでもタイガーには勝てない。

当面のマシーンは、少なくともスイング自体の精度を上げるのに数トンの重さのがっちりした土台を必要とする。手ぶれ補正の技術程度ではタイガーの精度は出ないだろう。ピンに向けて打ち出す情報の処理をどうプログラムするか、それも簡単ではない。タイガーの処理能力に匹敵するソフトの開発には時間がかかるだろう。

ボールにわずかな土が付いているだけでも、マシーンにとってはかなりの事件であるが、ボールを拾い上げて調べられないから計測用のカメラを持っていなければならない。

タイガーのプレーを見ていると、予定通りに打っても予定通りの結果が得られないケースがある。彼の記憶力と計算能力でもまだそういうことがあるくらいだから、マシーンが彼に勝つのはいよいよ至難の業だと言わねばならない。

今あるゴルフマシーンは人の形をしていない。腰の動きや肩の動きを再現するのはさほど難しくないが、問題は手首だ。私のスイングは、知らないうちに、あたかもマシーンとして作りやすいことを考えていたような進化を遂げている。

その結果、私のスイングには手首がない。その動きは他の部分に比べてあまりに複雑怪奇で、到底マシーンに取り込めるとは思えなかったからだろう。手首の動きについては、その機械的動きばかりでなく、感情の動きが入ってくることが問題だ。

二足歩行ロボットはとうとう走るようになったが、たとえそのロボットが国立競技場で三段跳びをする日が来たとしても、ゴルフスイングの手首の動きをロボットが行うには少なくともその先30年はかかるだろう。と言うわけで、私のスイングには今のところ手首がない。

手首のないスイングでは、腕はスイングプレーンに含まれるが、クラブはプレーンから飛び出す。リトラーの悩みは本質的にそのことだったのだ。フェイスを開けばスイングプレーンからは外れないが、インパクトの形からは外れてしまう。

ゴルフクラブがプレーンの中で動くスイングは手首にほとんど負荷をかけないので、それが自然というものではないかという疑問が生じる。ところがそうすると手首の形が変わる。柔らかな手首は自然に逆らわないから、あたかも水の流れのごとく、一番負荷のかからない最適な角度へと形を変えていく。

変化したものは戻さねばならない。出来るだけ自然に戻るのがいいだろうと、あるゴルファーはインパクトで手を止める。そうすると動いているクラブは自然にアドレスに戻る。そんなまだるっこしいのは嫌だと思うゴルファーはパワーをかけてクラブをアドレスに戻そうとする。しかしどちらにしても、一度変化した手首の形は、なかなか正確に元へは戻らない。

そこで、やはり正確に打つには手首は動かさない方がいいと思うゴルファーは左手首を鍛える。それによって暴れるクラブを押さえ込み、素知らぬ顔でピタリとクラブをインパクトまで戻す。外から見ればそのスイングは軽快だが、実はとんでもない馬力を使って踏ん張っているのだ。

ジーン・リトラーはこの道を歩かなかった。非力だった彼の選択は間違いではない。しかし彼の悩みは彼のスイングの中に、或る工夫として生きていた。この工夫は、手首を使うスイングにせよ、使わないスイングにせよ、双方が歩み寄るかのように、優れたプロゴルファーのスイングの中にいろいろな形で現れる。

ラリー・ネルソン、レイモンド・フロイド、トム・ワトソン、そしてブルース・クランプトン。不思議な輝きを持つスイングはそうやって生まれたのだろう。 筆者

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