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新しいゴルフスイングの蜃気楼の中で、ふと懐かしい言葉を思い出した。そういえば、ゴルファーにとって天下の御法度と言われているニクラウスのフライングエルボには継承者が出てこない。

唯一の亜流がクレイグ・スタドラーだが、彼のスイングはちょっと違う。ニクラウスほど偉大な選手も他にいないだろうに、彼のフライングエルボは完全に黙殺されている。狂信的ベン・ホーガン信者に暗殺されたと言ってもいい。

アメリカ人がこれほどベン・ホーガンを愛する理由を解明することは、アメリカ人を理解する重要なキーでもある。何しろジャック・ニクラウスを無視するということは尋常でない。

どう考えてみても、ニクラウスより偉大なゴルファーはいないし、タイガーだってまだニクラウスを越えるかどうかはわからない。そのニクラウスのフライングエルボを黙殺するということは、一般的なアメリカの法則に照らして如何にも不自然だ。

動力を歴史的に振り返ると、回転運動は最も原始的な動力のひとつである。人の体は筋肉の収縮という、いわばピストン運動を、ちょうつがいを使って回転運動に変える。機関車の車輪はその原理を使っている。水車や風車は真っ直ぐな流れの力を回転運動に変えて使う。

これらはみな単振動であるが、回転と、真っ直ぐ行き返るピストン運動は見方によっては全く同じもので、そこから三角関数が生まれた。動力の歴史はこのように円運動と真っ直ぐな運動の置き換えから始まり今日に至る。

ゴルフは回転だと言うが、元の筋肉は直線運動である。直線を回転に変えてクラブを振り、そのボールを直線的に飛ばすというのだから、なかなかやっかいだ。

ところがニクラウスのフライングエルボは直線からわざわざ回転を作らないで、直線のままいきなり直線的にボールを打とうとする試みである。ベン・ホーガンよりもシンプルな話だ。これがゴルフに最適かどうかは別として、単に動力の伝達として見れば、私は進歩だと思う。

回るものよりも真っ直ぐに動く方が便利な場合は多いし、まして真っ直ぐに狙いを定めて打つには回転より真っ直ぐな動きの方がいいに決まっている。ビリヤードでボールを突く代わりに野球のバッティングのようにキューを振り回して打っていたら話にならない。ニクラウスのフライングエルボがゴルフスイングの新常識にならなかったのはかなり不思議なことと言わねばならない。

ニクラウスが無名ならともかく、ゴルフ史上最強のゴルファーだからなおさら妙な話だ。フライングエルボはクラブを押すスイングである。横向きではあるが、明らかに真っ直ぐ押そうとして右ヒジをクラブの後方に上げる。それは右手で引き出しを開け、それを閉じる動作に似ている。ただ引き出しを横向きで開ける。回転の誤差を嫌い、飽くまでリニアに行きたいスイングである。

ゴールデンベアというジャック・ニクラウスモデルのアイアンは、彼のスイングイメージ通りに設計されていたから誰にも使いこなせなかった。ゴルフショップで初めて彼のアイアンを握ったゴルファーは、ライ角が余りに立っていて、しかもロフトが余りに寝ていることに驚いた。6番と思ったアイアンが実は4番だったりした。

フライングエルボは押しつぶすイメージのスイングである。実際にはニクラウス自身は押していないが、クラブをかなりシャットに構える。6番に見えた4番アイアンを、4番アイアンのロフトになるまでシャットにしてみると、ライ角の立ち過ぎと思われた部分もピタリと収まる。

スイングがこれほどクラブのデザインを変えるという現象は、ベン・ホーガンアイアン以上の衝撃だった。ただしベン・ホーガンのアイアンはゴルフの本質を突いた設計だが、ニクラウスは自分のスイングに合わせただけだ。なおベン・ホーガンはクラブのトルクだけでなく、グースネックをも非常に嫌った。私はその理由を解明したが、気付くのが遅すぎた。

トムワトソンは、彼のスイングの本質を伝えるような独自のアイアンは作らなかったが、ラムのツアーにあるワトソンモデルは非常に美しいアイアンだったと記憶している。スイングの進歩の系譜はベンホーガン以降、まずニクラウスに、続いてワトソンによって一新された。

これではまるで強いゴルファーの名前を並べただけで、どこにスイングの革命があるのかと思われるだろうが、ニクラウスのスイングはホーガンより進歩している。さらにワトソンは進化している。

いつの日にか、フライングエルボは復活する。ワトソンのスイングはフライングエルボより進化しているが、難しさも倍増している。だから一般のゴルファーはそれより前にフライングエルボを経験するだろう。フライングエルボは誰にでも出来るし、その効果も十分期待できる。

その先のスイングは誰にでも簡単にマネできるわけではない。そしてワトソンの先にはフューリックが待っているのだが、それはまだ150年ほど先のことになるだろう。

良識が常識に変わってから50年は保つ。その間に良識は進歩するが、それが常識になるのに50年だから、そろそろニクラウスの良識が常識に変わる頃のはずなのだが、残念ながらそれを良識と認識する人がいなかったために、なかなか常識にはならない。

理論的には、ワトソンのスイングはその後また50年しないと一般化しないだろう。その間にクラブが進歩するが、今のところそれはワトソンのスイングを誰でもマネできるようにする方向で進化している。もちろんクラブの進化がワトソンやニクラウスと無縁な全く別のスイングを生み出す可能性もある。

ゴルフのレッスンは多くの人がやっているが、どれも平凡でウソ臭い。練習量の効果と理論の効果を区別できないまま、生徒が上手になればそれを理論の正しさだと主張するばかりで、馬鹿馬鹿しい。

丸ちゃんと倉本はスイングの質が似通っている。力の出し方が幾らか違うが、どちらも一つのはっきりした思想に則してレヴェルの高いスイングをしているように見える。それは教えた人が賢いからだが、そういう指導者は決して多くない。

物理だけ考えてもトレミーからコペルニクスまで来るのに1800年、コペルニクスからケプラーまで100年、さらにニュートンまでそこから80年掛かった。そうしてニュートンから300年たった今、やっとのことで人々はニュートンを信じられる程度にまで進化したが、理解するのは永遠に無理だろう。ゴルフは物理に加えて生理学や人間工学の理解を必要とするので、もっと大変だ。

しかし実際には、そのニュートンもすでにアインシュタインに滅ぼされ、そのアインシュタインもマックス・プランクのおかげで生き埋めに会っている。これらが一般に理解される、いや少なくとも信じられるようになるまでにこれから150年は掛かるだろう。運動生理学も、現状はまだ数値の山に感動している段階で、小手先の成果を楽しむレヴェルにとどまっている。

生理学は測定器が進歩しておよそ何でも測れる時代になったが、いつも言うように数値を知ってもそれが何を語っているかを見抜く目がなければ意味がない。大抵の先生は数値を示して理論の権威を高める詐欺師と同じ手を使うが、数値自体には価値はなく、むしろその測定器を作った人々に拍手するという段階を越えていない。

ちなみに生理学ほどコンピュータのお陰を被った科学はない。今から30年ほど前、70年代の初めに私は初めてパソコンに触った。その時、コンピュータに世の中を変えるような革命が起こせるとは思えなかった。インターネットは知らないが、パケットだのBBSというのは知っていた。しかしそれらは別段革命と言うほどのことはない。

速いというだけでは革命にならない。天才が時代を100年進めるとしても、それは100年経てば天才無しでも同じことが起こるということだから、その時生きている人にだけは革命であるが、それ以上ではない。

しかし、同時に起こっている出来事を、同時には決して見ることが出来ない状況をもしも打破することが出来れば、それは革命だろう。そうしてコンピュータの速さがいつか革命を起こすかも知れないと思うようになった。

鉱物を調べるのなら、調べる項目を順番に調べれば、その鉱物の性質がわかるが、血液検査とか心電図とか、体を調べるとき、別々の時刻に測っていては生体の姿は正確に現れない。前を向いて何かを調べ、次に後ろを向いて別の何かを調べていては、その間に後ろで何が起きたかわからない。今日血液を検査し、明日尿を検査しても、同じ人の体とは言えない場合がある。

コンピュータはその恐ろしく速い速度によって、生きものを扱える測定器が作れることを示唆した。生体がある瞬間にどういう状態になっているのか、順番に調べていることに変わりはなくとも、その速度が非常に速いため、全く同時ではないが、限りなく同時に起こっていることとして測定できる。

人類が持っていた過去の測定器は、生き物の状態を正確には調べられなかったが、コンピュータはそれを可能にしたのである。これは単なる「速度という量」が「質」を変えた瞬間でもある。

新しい理論は常に凡庸な科学者に否定されるという歴史を繰り返してきた。あのガウスにしてさえ、ガロアを葬り去ったのである。それは普通の人々が新しい理論に出会ったら、ただ拍手するだけにしておけという教訓である。

ニクラウスは自身のスイングについて多くを語らなかった。ベン・ホーガンはゴルフを進化させねばならない時代に生き、その運命に逆らわなかったが、ジャックはゴルフの黄金時代を作り、神は彼にそれ以上を望まなかった。

彼がベン・ホーガンほどにスイングを語れば、ゴルフスイングの歴史が50年前進したのは間違いないが、語らなかった分、彼はもっと偉大なゴルファーとして歴史に残った。

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