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サーヴを教えるときにまず何をするかというと、サーヴの素振りをしてもらう。このときラケットがビシュッという音を立てる。風を切る音だ。この音がボールを打つ位置の手前から始まり、ボールを打つはずの位置で聞こえなくなればその選手のサーヴに一応問題はない。

ドライヴァーのシャフトの先端に取り付けてヘッドスピードを測る器具があった。体温計を振って水銀を下に下げるのと同じ原理で、ヘッドスピードを加速度として測る。この器具はヘッドの加速度を測ることは出来たがどこで最高速度になったのかはわからない。

同じような器具がテニスにもあって、それは台所の壁にくっついているホック付きの吸盤に似ていた。ラケット面の両側からシンバルのごとく二つの吸盤を合わせる。中心軸が空洞になっていて風が通ると音がする仕掛けだ。電気仕掛けでないところがうれしくて私は大分買った記憶がある。大昔のことだがミズノで売っていた。

この器具は風を切る速度で音の大きさが変わるのだが、音階が変わればもっとよかったと思う。これと同じ原理のものをドライヴァーに取り付けると、ヘッド速度に応じた音程で音が出る。インパクトのところで一番高い音になればいい。

パワーのあるゴルファーは一番高い音がインパクトのずっと後でしたにせよ、インパクト地点の音程通りの飛距離が出るのだから非力なゴルファーがインパクトで最高音程を出せても、その音程がパワーのあるゴルファーより高くなければ飛距離は劣る。

パワーのあるゴルファーは有利で、その最高の音程がインパクトの場所で聞こえるようにスイングを工夫すれば飛距離はどんどん伸びていく。非力なゴルファーはインパクトでの音が最高になっているならもうそれ以上の飛距離は望めない。この物理学的事実は如何ともしようがないが、私の変な話はここがスタートだ。

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ボールを飛ばすにはパワーと技術が必要で、タイガーはスウェイ打法(ヨーヨー打法)という最高の技術と持って生まれたパワーの両方を使ってボールを飛ばす。テニスのサーヴとスマッシュにはこの点について微妙な話がある。象徴的に言えばサーヴはパワーでスマッシュは技術だ。

日本人テニスコーチはサーヴとスマッシュが全く違う技術だということを知らないのでスマッシュをサーヴの技術で無理矢理代用している。実際代用できないわけでもなく、十分パワーがあればサーヴの技術で打っても実用になる。何より特別な技術を必要としないから便利だ。

テニスは体力と筋力勝負だから技術を磨くより筋トレの方が手っ取り早いし簡単だが、このスマッシュの技術だけは決められた力の限度の中でいかに速いボールを打つかという話で、つまりゴルフのドライヴァーショットなどでは脚光を浴びる。ゴルファーはプロゴルファーとして生きる場合を除けば筋トレなどはやらない。しかし飛ばしたい。

つまずいてぶっ倒れた経験は誰にもある。そのときのすさまじいぶっ倒れ方を演技でやれ、と言われたとき、本当につまずいたのと見分けがつかない「つまずき」の演技が出来る俳優がいるだろうか。演技でつまずくのは技術である。技術で飛距離を限界まで伸ばすにはそれと似たような難しさがある。

サーヴはとりあえず力任せにボールをたたく。背筋と腕力の問題だ。慣れてくるとスピードは上がってくる。これは練習が筋肉トレーニングにもなって腕力が強くなるのと、スイングの最高速度が出る地点をインパクトの近くに持ってこられるからだ。ゴルファーもこれと同じ方法でドライヴァーの練習をしている。

ところがどんなにサーヴが上手になっても、習わない限り本当のスマッシュスイングは出来ない。実はプレーヤのパワーが同じ場合、スマッシュの方がサーヴよりも速度が出る。つまずく力でボールを打つからだ。サーヴはつまずかない。だから力一杯打った分だけの速度しか出ない。

私は日本のゴルフレッスン事情を知らないが、ドライヴァーの飛距離を伸ばそうとすれば方法は決まっている。その方法はたくさんある。スイングを大きくするのが一番単純だが、足腰の鍛錬が要るしタイミングが難しくなる。筋肉トレーニング、これも効果的だが、そこまでする前にした方がいいことがあるような気になる。そして最後が技術だ。

たとえばテニスのサーヴを速くするためにどうするかというと、走って打つ。助走しながら打つ。これをすると全身を使ったフルパワーのスイングが体験できる。自分のフルパワーがわかるとそれと同じパワーを立ったままのスイングから作り出そうと努力する。ヴァレーボールと違ってテニスのサーヴは助走して打てない規則になっているが、練習は自由だ。

似たような方法はゴルフでも使われているはずで、たとえば左足を踏み出して打つ。もっとすごいのはくるっと回って打つ。これはちょっとややこしい。グリーンというかフェアウェイに背を向けて構える。

そこから普通にバックスイングするのだが、ダウンスイング前に左足を後ろに引いて90度回転しボールを打つ。嘘ではない。これを練習ではなく実際にティーグラウンドでやっているゴルファーもいる。

こういう道のりとは本質的に違う、飛ばす「技術」を磨く方法もまた沢山知られている。黒沢監督はつまずく演技が悪いと撮影を中止する。俳優がどうすればいいか、と聞くと「本当につまずくんだ」と答える。どこかで聞いたような話だ。スマッシュはラケットを天頂に向けて力一杯投げる。ラケットから手を離さなければ何が起こるか。

手首の自然な仕掛けによってラケットはほぼヌンチャク同様に回転する。そのラケットがどこかで水平になった瞬間にボールを打てば、ボールは上から蓋(ふた)をされたように真下に飛ぶ。あらかじめその位置でラケット面が下向きになるようグリップするのだが、そのグリップはスマッシュの真実を知らない人には異常で、とても信じられない握り方になる。

これは言わばラケットがつまずくわけで、幸いなことにこの場合演技をする必要はなく、ただラケットを思い切り空高く投げて、手を離さなければ勝手につまずいてくれる。ちょっと練習しないとつまづけない場合もある。ところがサーヴはつまづかないで自分の力で打つ。

ドライヴァーショットにはスマッシュの要素とサーヴの要素が混じっているが、それを認識しているゴルファーはごくわずかだ。サーヴにもスマッシュの要素は幾らか入り込んでいるけれど、スマッシュの技術だけでサーヴを打っていたのは後にも先にもウィンブルドンチャンピオンになったマイケル・シュティッヒただ一人しかいない。

サーヴは相手コートに向かってラケットを投げるように打ち、スマッシュはラケットを天頂に向けて投げる。ドライヴァーで言えば、目標に向かってボールを打つイメージがサーヴ式で、一方スマッシュ式ではただクラブをボールに向かって思い切り投げるだけだ。

スマッシュ練習のコツの一つは腕がインパクトでとまるように振ることで、空へ向けてラケットを投げれば、腕はそのまま空に向かって真っ直ぐ伸びてとまる。無論そこで激しくつまづいたラケットは前方へ回転するので、その重みで腕は前に引っ張られ、普通にスイングしたように見える。

ゴルフスイングでもクラブをボールに向けて投げれば、インパクトで腕は真っ直ぐボールに向いたままとまるはずだ。前に振ってはいないのだから。この場合もクラブの重さでクラブは回転し、それにつられて腕も回転する。つまりゆっくり振っているように見えてよく飛ぶゴルファーはスマッシュ打法である。

ゆっくりに見えるのは、ボールに向かって投げ出された腕とクラブがインパクトで真っ直ぐになり、そこが終点でいったんとまるからゆっくりに見える。つまりテニスのスマッシュスイングはゴルフで飛距離を伸ばすための究極の技術と同じということになる。

パワーが同じなら、つまづくより速くクラブを振ることは出来ない。(ヨーヨー打法はスマッシュ打法をさらに進化させた打法です)

こういうスイングで飛ばしているゴルファーを見るともっと振ればもっと飛ぶように思うが、実はそれが限界である。投げる速度を速くすればもっと飛ぶけれど、それはパワーの話になり、技術の話ではなくなる。

つまづく演技はそう簡単ではない。一つの心配は、ボールを運ぶと言うくらいのゴルフに、目標を無視してスイングすることは如何なものかということがある。しかし幸いスマッシュの打法でのボールの飛ぶ方向について心配はいらない。

インパクトの位置ではクラブフェイスは自然に予定どおりの向きになる。ボールを前に運ぼうとするスイングの方がむしろ危ない。なぜならスイング中のクラブヘッドは人間がその速さを認識できる限界を超えていて、その中でフェイスの向きをコントロールすることは不可能だからだ。

ボールを目標方向に最大の速度で打ちだすために目標に向かって打たない。これがスマッシュ技術で、サーヴに比べると理解しにくい技術だから日本のテニスコーチは知らない。世界でプレーしてきた日本人選手の中にはそういう世界標準のスマッシュスイングを打っている人が数人いるが、習ったわけではなく、見よう見まねでそうなったので、知っているわけではない。

「投げ釣り打法は待つのか」にも書いたが、スマッシュ打法は私が現実にスマッシュを教えるとき非常に苦労するところで、ドライヴァーを、あるいはクラブをボールに向かって投げるという、昔から言われていることと同じ理屈だが、どちらもなかなか身に付かない。 筆者

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