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0354 普通の飛ばし屋のスイング
麻雀と運動神経との関係は薄い。ビリヤードと運動神経の関係はそれより幾らか密接だが、さほどではない。ゴルフと運動神経の関係はビリヤードより密接だが、さほどでもない。
プロゴルファーを除けば、上手なゴルファーが運動神経抜群というわけでもない。銀行員は手堅いゴルファーだが、運動神経を感じることはない。さて、私の町内会には私と同じような体格で、私より40ヤード飛ばすゴルファーがいる。
私はテニスコーチだから体力も運動神経も彼に劣るはずがない。しかも私の方がかなり若い。彼は60才を越えて飛距離が落ちたと言っていた。彼の飛距離は270ヤード程度だが、スイングに異常は見られなかった。
ドライヴァーは今どきの最新型に比べると重かったが、私のほどではない。普通に上げて普通に打つのだが、飛ぶ。スイングは速くもなく遅くもない。両足のつま先をかなり開くのが特徴で、それはつまり右足を使わないということだ。
右足の蹴りで打つスイングではない。つまり腰を回して打つスイングではない。フォロースイングは小さかった。ちょっと不格好な感じでフィニッシュする。体が固い感じがした。
何ホールか見ていたが、それにしても飛ぶ。打った瞬間、ボールがスモールボールかと思うように小さくなる。ワンラウンド見ていたが、気が付いたことがひとつだけあった。トップオブスイングでの手首の歪みだ。
私のスイングは全てが楽にコントロールできる状態で行われている。手首の角度も肩の入り方も、何から何までコントロールできる。その範囲を越えない。ところが彼のスイングをよく見ると、ダウンスイングの入り口で手首がグニャッと曲がる。
彼が飛ぶ秘訣はそこにある。原発でも原爆でも、臨界という状態がある。いまごろ流行の言葉だ。この状態は非常に微妙で、その状態を維持コントロールするのは恐ろしく難しい。昔テレヴィで寿司職人の名人というのがあった。
この人は寿司を握ってお客に出したときに、そのにぎりの米粒の数がわかった。何粒だったか忘れたが、手の感触で握った米粒の数がわかるのだ。それはもうすごい話だ。臨界というのはその何千倍もの技術を使わなければコントロールできない。
彼の手首が一瞬崩れたのを見たとき、これはテコンドウがヌンチャクになったのだと思った。臨界を越えた手首をコントロールするのは非常に難しい。しかし彼のボールは全く曲がらず、予定通りのところへ落ちた。
彼の技術は飛距離にあるのではなく、臨界を越えた手首をコントロールする経験というか練習量にある。昔はもっと飛んだというが、たぶん使い物にならないほど曲がった時期がかなり長かっただろうと思う。
トップで手首がグニャッと曲がり、臨界を越えたとき、クラブはヌンチャクになって一気に振り下ろされる。クラブは相当急角度に振られているはずだ。見た目にそういう感じはないが、ケプラーの法則通りに動いているだろう。
「ジーン・ザ・マシーン」に書いたように、スイング中にクラブヘッドの動きをずっと見つめていられるようなスイングでは飛距離は出ない。ただ打つスイング、しかもボールを狙って打つのではなく、素振りのようにただ思い切り振るスイングでないと飛距離は出ない。
ボールを打とうと考え、そこへヘッドを運ぼうとすればスイングは幾らか遅くなる。手首、つまりグリップ部分をボールに向かって一直線に投げつければ、飛距離は出る。これが普通のロングヒッターのスイングである。
同じ体格から私より40ヤードも先まで飛ばす技術より、それで真っ直ぐ飛ばせる技術に驚いた。
補 その1
トップオブスイングで手首が甲側に、限界まで折れるとそれはもはや神の領域である。そこからダウンスイングを始めた場合、何がどうなるのか誰にもわからない。ただ、とにかくボールは打てるから、そのときのフェイスの向きがスクエアならばボールは飛ぶ。
ホームランバッターがバットをホームベイスに被さるように構える。それと同じだ。そこからどうやってバットを出してくるのか、間に合うのか、と思うけれど、ホームランバッターの強靱な手首と天才的なタイミングは、それでボールを打ち、ホームランにする。
バントを延長したような、全てが滑らかでつじつまの合うスイングは飛ばない。それでホームランを打てたのは怪力の天才張本ただ一人だ。この仕掛けを説明するのに私はドアを使っている。
開いているドアが突然の風で閉まるとき、それはしばしばビックリするほどの衝撃音を出す。引き戸に直角に、風を受けるためのスピネーカーのような大きな帆を張ったとして、それが強風を受けたとしても、回転ドアのような爆発的な閉まり方は起こせない。
ごく小さなそよ風程度でも、回転ドアはバシャッというすごい音を出す。回転するとトルクが発生する。そのエネルギーの伝達は実に巧妙で、たとえて言えばテコの原理に感動する要領で、エネルギーが増幅されると思えばいい。
つまり、手首を神の領域まで曲げれば、そよ風がドアに驚くほどの衝撃音を発生させるように、驚くほどの飛距離が出る。ただし、そのタイミングを体得するのは難しいし、強靱な手首も必要になる。
最近ダスティン・ジョンソンのスローを見たが、彼は典型的なほうき型スイングで、飛ばすために神を畏(おそ)れぬ不届きなゴルファーではないことがわかった。彼の飛距離は体力と身長がもたらすごく自然なものだった。
身長160センチの2割は32センチだから、身長が190センチなら飛距離も自然に2割り増しになる。230ヤードの2割は46ヤードだから276ヤードになる。アメリカのゴルファーが280ヤード飛ばすのは当たり前で、決して異常ではない。
補 その2(近藤和(カズ)と王貞治)
飛ぶスイングはどうやればいいかと聞かれることがある。理屈はわかっているが、興味がないから教えることは考えていない。テニスならば、生徒が知りたいテクニックを教えるコツというか、技術は山と持っている。
ちょっと考えたところ、一番わかりやすいのは野球のバットを振ることだろう。飛ばしたいと思うゴルファーには体力がないから本物のバットを使うと手首を痛める。長さが50センチ程度の軽い棒、たとえばスリコギのような棒を持ってバッティングの素振りをしてみる。
昔近藤和というユニークなスタイルのバッターがいた。彼は普通のバッターと同様バットを肩に背負(しょ)うのだが、バットを肩に触らせない。バントのような持ち方でバットを持ち、そのまま肩に背負う。
投手の投球フォームに合わせてそのバットをゆらゆらと揺らしながらタイミングを取るのだ。その格好はほとんどバントであるが、バットがホームベイス上ではなく、肩の背負われている点だけが異なる。
こういう格好からバットを振ると、スイングはバントの延長になって一切のストレスなしにバットは滑らかにボールを打つ。ただしロングヒットは出ない。近藤和はいぶし銀のシングルヒッターだった。
飛ばすスイングを知るにはバットの先をベイスに被さるように構え、バットの先を一塁ベイスの方へ向ける。王貞治は左利きだからバットの先は三塁の方角を指していた。そういう格好から速球を打つつもりでバットを振る。
本物では手首が壊れるのがわかるからやらないはずだが、バット代わりの軽い棒ならば誰でも出来る。スリコギでも重いなら鉛筆でもいい。速球に振り遅れることなく打とうと思えば、バントとは違ったスイングになる。
つまり、バットがベイスに被さったような威圧的な構えから、いきなりボールを打とうとする。軽ければそれが出来るはずだ。そのとき手首がどう動いたか、それはなかなかわからないが、それと同じようにゴルフクラブを振れば、ヘッドの速度は劇的になる。
クラブを持つ前に、竹の棒でもいいから軽い棒を持ってバッティングのマネをする。そのときバットを肩に乗せず、ベイスの上に被せるように構える。ここから一気にスイングする。
この素振りを繰り返せば飛ぶ方のスイングがわかる。一方、近藤和のスイングをマネしているともう一つのスイングがわかる。自分のスイングがどちらなのかもわかる。ゴルフスイングにはいろいろな分類があるが、この範疇(はんちゅう)の分類では、スイングは二つある。
飛ばしたいゴルファーでなくとも、自分のスイングがどちらに属するのか知るために、是非一度やってみていただきたい。筆者

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