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0352 ゴルフスイングの苦悩
読者は慣性の法則をご存じだと思うが、世の中にはその言葉を知っている人が半分、それを理解している人はほんの一握りに過ぎない。つまりは慣性の法則を知らなくても生きていけるわけで、ずっと昔のギリシャ時代の人々と変わらない。
今でも物を動かすには力を入れていなければならない。力を入れ続けなければ物はとまってしまう。しかし私たちはそれが摩擦のせいだというのを知っている。摩擦がなければ物はとまらない。一度力を掛けたらずっと動き続ける。この事実に気付くのは大変なことだっただろう。
慣性の法則を知っていたからといって現実には物を押し続けなければそれはとまってしまうので、たいして意味のない法則だと普通の人々は感じている。実際実務家にとってはどうでもいいことだ。発見が遅れた理由がここにある。
ゴルフスイングの本質もそれとよく似ている。実務家は、つまりゴルファーは普通の人々だからスイングの本質がスコアにつながると思えば勉強するが、それよりは目先のショットに明け暮れる。プロもレッスンプロも皆同じだ。事実を積み重ねて分析すれば気付くはずなのに、誰も気付かない。
「摩擦」があまりに当たり前の自然だったために、慣性の法則は長い間発見されなかった。スライス三重苦などにも書いたが、一般にゴルフはスライスするように出来ている。クラブがスライスするように作られ、人の体もスライスするように動きやすい。その話はもう済んでいる。
それとは逆の現象があって、興味深いと言えばこちらの方がおもしろい。非力な女性がすなおにボールを打つと左に引っかけるのをよく見る。特にフェアウェイウッドで見かける。なぜだろうか。左へ引っ張るのは初心者の原理に従うとして、普通はそれがスライスして戻ってくるのが初心者だ。それが左へ低く転がってそのままなのはなぜか。

カットにアウトインに入れば左へ飛ぶが、同時にフェイスは返らないことになっている。だからスライスしなければならない。アイアンはヘッドの先端が重くしてあるので非力な人はフェイスが返ってこないからプッシュアウトのようなシャンクもどきが出る。
全ては理にかなっている。ウッドのヒールが地面に当たってクラブヘッドを支え切れずにヘッドが急に回転する、ということはある。普通のゴルファーでもラフからのショットで芝の抵抗に負け、ヘッドが回って引っかけるが、それと同じことだ。
それなら話は簡単だしちっともおもしろくはない。実際にそういう原因で引っかけることも多いと考えられるが、時々そんな感じではない場合を見かける。そこが問題だ。
私はヘッドをやや開いて構えることが多い。クラブの長さとヘッドの形状によって開き方は違うが、場合によっては30度開く。それで真っ直ぐに飛ぶ。これについての解説は単純で、ボールの左側10センチの位置でクラブフェイスを真っ直ぐ目標に向けて構え、そのクラブヘッドをボールの右側の普通のアドレス位置に自然に持ってくるとフェイスが30度開いているだけの話だ。

このとき握りを変えずにただ無理をしてフェイスの向きをスクエアにしてから打つとやや左へ引っかける。私はボールがクラブフェイスから離れる位置を10センチ先と信じている。
クラブによってボールがリリースされる位置も少しずつ違うと信じている。短いウッドが一番早くて、そういうクラブはボールの左5センチでフェイスをセットし、それから自然にボールの右までクラブを動かす。そのときのフェイスの開きは30度にはならない。
私はケプラーを使わないのでスイングは時計の針に近くなる。手首が柔軟であればダウンスイングでクラブヘッドは置いてけぼりになり、従って手首は急角度に折れる。ケプラーになるわけだ。
が、そういうスイングではアドレスで真っ直ぐに目標に向けたはずのフェイスはインパクトでは開いてボールに当たる、と私は考えている。しかし彗星の尾は太陽近傍で劇的に方向を変える。
つまりそういう普通の打ち方ではボールがフェイスに当たるときはフェイスは開いていて、しかしボールをリリースするときにはフェイスの向きは目標を向いている、と私は考えている。
非力な女性は私と同様にクラブをハンマー投げのごとく滑らかに円運動させるか、そうさせるのが正しいスイングだと思って、私と同じように打ってしまう。だからボールは左へ飛ぶ。どんなに練習してもボールは左へ飛ぶし、飛ばなければならない。
ところが一般的にはゴルフはスライスから始まりフェードで終わることになっている。ケプラーは一時スライスを増大させるが、その壁を超えさえすればボールは真っ直ぐに、しかも非常によく飛ぶ。
慣性の法則を隠し続けた「摩擦」にも似た「ゴルフスイングの苦悩」とは大体こういうことなのである。スイングはどうやっても構わない。正しいスイングがあるわけではない。私の打法は飛ばないからプロ向きではない。
しかしその原理はクラブの性質や力学に照らしてわかりやすく、ごまかしがない。一方で一般的な打法はインパクトの近傍が(やぶ)藪の中になっている。それで沢山のそれらしい理論が出来上がっている。しかし誰もそれを見ることは出来ない。たぶん永久にそれは見えないだろう。
ゴルフスイングの研究や理論は言わば見えないものを見ようとする歴史である。それは科学と同じ道である。わからない間はいろいろな意見が出て、宗教じみているし詐欺に近いのもあるが、わかってくれば嘘は引っ込んでいく。
一般的なゴルフスイングの仕掛けが白日の下に明らかにされるのにはもう少し時間が掛かるだろう。それまでは怪しいレッスンがはびこる。私の人生が尽きるまでには解析が終わらない普通のゴルフスイング。
それががわかっているから、私はすでにわかっているスイングでゴルフをしている。私がトルクの少ない飛ばないスワンネックを作るのも、曲がらないS400のシャフトを愛するのも、それらが飛距離を落としてゴルフに不向きになるのを覚悟で、やっぱり解析済みのわかっているスイングでゴルフをしたいからだ。
それが一つの道ならば、謎の藪を飲み込んで戦い、わからないながらも素晴らしい飛距離とスコアを手に入れる、プロのような世界もまた一つの道である。ゴルフスイングなんてどう打ったっていいんだ。私のスイングだって本当のところはまだわからない。 筆者

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