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0345 三本の「や」
日頃お世話になっているご近所の方とゴルフをした。ゴルフ場で開口一番、最近フェアウェイウッドのセットを再塗装したら塗りが厚くて打球音が悪くなった、そうだ。ゴルフが好きなんだろう。

私は同伴競技者のスイングに一切意見を持たない。見ないわけではない。勉強になるからチラッと見る。それですべてがわかる。しかし感想は述べない。知識は水の流れのごとく、高い方から低い方へと流れる。ごくわずかな傾斜でさえ、水は確実に流れ下(くだ)る。

泉のように湧き出る知識だから、流れてしまっても困るわけではないが、頼まれもしないのに流す必要もない。ところが訊(き)かれると返事をしないのも妙なので、困る。テニスならばプロだから喜んでフィーを取って教えるが、ゴルフは素人だ。

ボールをどこに置くのがいいか、と尋ねられた。どこでも好き勝手でいいと思います、と答える。ボールが左へ飛んでさらにドローしている。方向さえ忘れれば非常にいい球筋だし、ジャストミートしている。どうして左へ飛ぶのか、と尋ねられる。

大根切りのように、左へスイングしているからです、と答えた。ついでにスイングしている方向へ正確に真っ直ぐ飛び出しています、と付け加えた。ドローが掛かるのはヘッドがキックしているからです、とも付け加えてしまった。意見は持たないが、尋ねられて答えないわけにもいかない。

しかしそれは私の知識が下へ向かって流れ出ているわけで、なぜかだんだん疲れてくる。コーチだから教えるのには慣れているのに疲れてくるのはなぜだろうかと、思う。

ラウンドの最後の方、138ヤードのショートホールのティーに来たとき、バッフィーを持っているのを見て、ついうっかり、向かい風が強いですね、と言ったのが間違いの元で、何番で打ったらいいか、と尋ねられてしまった。

ドライヴァーでも届かないでしょう、と答えた。それは日本人ゴルファーの耳には信じがたい発言だったに違いない。距離はたったの138ヤード 、グリーンとティーグラウンドはほぼレヴェルで、どうして138ヤードをドライヴァーで打てるか、というわけだ。

テニスコートに散らばっているボールが風によって一斉に動き出すのは風速5メートルを超えたときだが、このショートホールに吹いていた風は真っ直ぐ真正面からのアゲインストで6メートルくらいあった。

日没御免のルールで最終組を二人で回っていた。日も暮れかけて、後ろの組はいないし、普通は後ろからグリーン整備の団体をぞろぞろと引き連れて歩くのだが、この日は誰もいなかった。

ものは試しでドライヴァーを打ったらどうかと言うと渋々ドライヴァーを持った。ボールはグリーン右手前のバンカーの15ヤード手前のラフに落ちて止まった。100ヤードしか飛んでいなかった。
もう一球打った。それはジャストミートで、グリーンの一番奥に立っている旗の左をかすめて落ちた。強い受けグリーンだったが、さすがに止まらなかった。行ってみるとボールはピン奥のラフに止まっていて、グリーンではないけれどピンまで5メートルしかなかった。

ラフから下りでグリーンエッジまで2メートル、ピンまで3メートルを今使ったドライヴァーをパターくらい短く持って転がしたらどうか、と勧めた。やったことのないショットだからボールはピンをだいぶオーヴァーした。

しかしもしもバッフィーで打てば確実にピンまで45ヤード以上残る。それをサンドでコントロールしようとするとザックリやり、二度目のサンドもショートする。5か6で上がるはずだった。

このホール、ドライヴァーでグリーンまで打つか、あるいはサンドのフルショットの距離を残せるクラブでティーショットするのが賢明だ、と説明した。それならボギーで上がる確率は高い。

お昼になって18番ホールのグリーンを見渡せる食堂にいた。次々と上がってくるゴルファーたちを見ながら食事が来るのを待っていた。そこでつい一言、ピンオーヴァーに打ってくるゴルファーは一人もいないだろう、と言ってしまった。

食事が終わるまでに6組20人程度が上がってきたが、グリーンの奥、ピンオーヴァーに止まったボールは一つもなかった。ここもピンが最奥に切ってあって多くのゴルファーは20メートルを超えるファーストパットを打っていたが、無論それもまたショートだ。

午後のラウンドではピンオーヴァーに打ってみたら、と勧めた。そのつもりでいてもオーヴァーに打てるホールはないだろう。もしもグリーンオーヴァーしたら、お祝いに私が足で蹴り返すから、とも言った。

実際午後の出だしのホールでいきなりピンオーヴァーしたので、私は約束通りボールを蹴り返しグリーンに乗せたが、そのショットはフルショットのトップだった。つまりミスだった。

日本人ゴルファーは届くはずのないクラブで打つ。そのメカニズムは「三本の矢」に似ている。一本の矢は折れる。二本でも折れるが、三本束(たば)にしたら折れない、という話だ。

練習場のアイアンマットは余程でなければダフらない。マットの上からのナイスショットの中には、ターフの上ではダフリになるショットが約90パーセント含まれている。シングルでも30パーセントは含まれている。ただしシングルはそれを知っているし、見分けが付いている。
軽いダフリはその程度にしたがって飛距離を落とす。つまりほとんどのゴルファーはフェアウェイから打つと飛距離が落ちている。当然ラフだともっと落ちる。平均して約20パーセントも落ちる。まずこれで届かなくなる。

10球に1球だけ「普通」に飛ぶとしても、その「普通」にも問題がある。練習場で100球って一度か二度だけ出たジャストミートのショットの飛距離を自分の「普通」の飛距離として記憶している。これでもっと届かなくなる。

練習場で5センチほどティーアップしたボールをウェッジで打つと、いつものように安定した飛距離を打ち続けることはできない。ましてコントロールショットをするとボールの下を抜けたりトップしたりする。ウェッジの「普通」の飛距離はこうして調べるものだ。

グリーンは案外大きく、奥行き30ヤードは珍しくない。30ヤードと言えば番手2番手違ってもグリーンのどこかには乗る勘定である。そこへ「手前から攻めるアホ」が追い打ちをかける。これでもっともっと届かなくなる。

最後の矢、無知の矢はヤード表示の知識だ。グリーンまで100ヤードという標識やティーグラウンドで見る距離表示は、グリーン手前のエッジまでの場合とグリーンセンターまでの場合と二通りある。

グリーンまで100ヤードと言うのと、グリーンセンターまで100ヤードと言うのがごっちゃになっている。万が一その表示がグリーンエッジまで100だとすると、100打てば手前から攻められるわけで、しかしピンはその奥30ヤードにある、という悲惨なことが起こる。

こうして日本のゴルファーはショートしかできない不思議なゴルファーになる。そして日本のグリーンがほとんど強く受けていることが駄目を押す。

結局後半の9ホールでピンオーヴァーに打てたのはトップしたミスショットと私がドライヴァーを使うように勧めたホールだけだった。つまりグリーンオーヴァーに打つと決めてかかっても、一度もオーヴァーには打てなかったということだ。

それはご近所さんだけではない。嘘だと思ったらやってみたらいい。嘘ではないことがわかる。18ホールの半分をピンオーヴァーに打てたら、それは日本人ゴルファーの奇跡であり、進化だ。筆者

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