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私がクラブをいじり始めた頃は、クラブの性質を表す数値はごく少なかった。長さとかロフトとかライ角とか、そのくらいで、まあ、あってもなくても大した問題ではなかった。実際に触ってみればわかったから。



通信販売の時代だからか、メーカーはやたらにいろいろな数値を示さなければならなくなった。それで売り上げが伸びるのは、飛距離に関する数値だけだと思うが、そんなものはみんなが使えば怖くない。それでも数値は増える一方だ。


私は自分が使いやすいようにクラブを改造してきた。何をどうしたのか、説明するときに大変だったが、今はたとえばプログレッションという数値がある。これは逆グースネックの度合いを示すものだが、昔はそんな数字は誰も調べなかったようで、言葉がなかった。



私は自分の言葉で説明したが、日本語としてそれに相当する「単語」を当てはめていたら、今頃世界中でその「単語」が日本語そのまま使われたか、それとも英語ならプログレッションと訳されたわけだ。数値に限らず、誰もが共通して持っている認識を示す固有名詞があるということはとても便利だ。



私はトップオブスイングという熟語をゴルフで知り、テニスのレッスンで初めて使った。これは単語ではないが、それまでテニスのレッスンにトップオブスイングという言葉がなかったので、いちいち「ラケットが最大に引かれたところ」などと言わねばならなかった。



ゴルフはスイングの技術が微妙で、しかも精密でなければならないから、いろいろな単語が固有名詞化して、それを使ってレッスンが行われていた。テニスよりもはるかに進化していたのだ。その流れが道具の性質を表す数値にまで及んできた、ということだ。



私もクラブについて知りたい数値が幾つかある。しかし私が知りたい数値はまだ誰も数値化していないし、その性質自体をまだ認識していないようだ。プログレッションという数値は私が私のクラブを説明するのにとても便利だが、私がこれに取り憑(つ)かれていた昔、誰も相手にしてくれなかった。クラブ屋さんもメーカーも。



そんな数値に何の意味があるんだ、という顔には薄笑いさえ見て取れた。数値なんて、そんなもんだ。数値がスイングを作るのではない。スイングが数値を欲しがるのだ。そして数値が出来上がれば、どんな数値が自分のスイングに適しているか、自分のスイングを見つける手助けになる。



あくまで手助けになるだけの話で、数値がスイングを作るのではない。いや、本当のことを言えば、数値がスイングを作る日がやってくる、と言い換えた方がいいだろう。まだ必要な数値が出揃っていない状況で、足りない情報だけから正しいスイングを見つけることは不可能で、もっと言えば、間違った回答しか出てこない、ということだ。



かつてプログレッションの重大さを理解しなかった人々が、今は数値によってクラブを選べと言う。馬鹿馬鹿しい話だ。まだ足りない要素が沢山ある。それらが全て認識され数値化されるまで、相当の時間が掛かるだろう。今ある数値だけでは何もわからない。それどころか多いに危険でさえある。その話をしよう。



私自身は特に数値マニアというわけではないが、必要になることは少なくない。だから数値マニアを馬鹿にはしないが、現状、彼等が言っていることは皆誤りである。数値、それだけが正しい。ただ、その数値の意味から、まだ知られていない別の数値のことに思いを伸ばせるかどうか、それが問題なのだ。依然として発想が貧し過ぎる。



仮にゴルフマシンを使って考えた場合、道具の数値は自分のスイングを見つけるのに役立つ。しかしあなたは機械ではない。心理的な要素を無視してもなお、マシンではない。なぜなら、マシンは無限のパワーを前提にして作られているから。それならば、ゴルフマシンのパワーを落とせばいいか。



これは非常に複雑な話になる。単にパワーを落とせばいいわけではない。パワーを落とせば、たとえば供給電力を落とせば、モーターはどこかでうなりを上げるか、速度を落とすが、それは同じパワーを持っている人間のスイングと同じ挙動にはならない。そこが複雑なのだ。



私はこのブブックでたびたびライ角の話を書いているが、ゴルフマシンのスイングを前提とすれば、ライ角の影響は計算できる。数値に意味がある。しかし人間はライ角を見ている。現実に見ている。すでにその時点で、ゴルフクラブの数値は自分のスイングを見つけるという目的について完全に全ての意味を失う。あるいは、何もかも無視してスイングするゴルファーを前提にした場合だけ有効にはなっているが、そんなゴルファーはいない。



そういうことが数値マニアには理解できていない。したがってゴルフメーカーを含む数値派のアドヴァイスには誤りが多い。上級者を対象にした場合を除けば、誤りしかない、と言っても過言ではない。



同じスイングをしていても、ライ角の違いはフェイスの挙動を変える。それはマシンでも同じなのだが、マシンはその挙動の変化には気付かないが、人間は気付く。それでスイングの動きを変える。そういうことを考慮しないで、何が数値だ。数値は正しい。しかしその数値だけでスイングが規定できるかどうか、それを考えないで何が数値だ。



数値を侮辱(ぶじょく)しているとさえ、私は思っている。数値は真面目なのだ。それではまるで、都合のいい数値だけ示して、都合の悪い数値は隠す、詐欺師と同じだ。無論、メーカーの技術者や、クラブの物理的な数値を使ってあなたに適したクラブを勧める数値マニアは詐欺師ではない。



自分の利益のために嘘とわかっていながら何かを言うのが詐欺だから、彼等は詐欺師ではないが、結果的には詐欺師と同じことをしている。昔、トヨタショウジ事件という、日本全体を揺るがした大詐欺事件があったが、その事件の弁護を引き受けていた知り合いの弁護士に聞いてみると、その会社の従業員のほとんどは詐欺とは知らずに働いていたそうだ。つまり被害者でもあるのだった。



誰が、今知られている数値だけから、ゴルファーにとって最適なクラブを選べると言い切ったのか。誰だ。それは詐欺と変わらないのではないか。読者はくれぐれも心得て置いて欲しい。自分のスイングは自分が決めること。そのスイングに合ったクラブは自分の感性を目一杯使って見つけること。数値はその手助けをするに過ぎない、ということ。 筆者

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