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クラブの説明に使われる数値が増えた。数値の定義が出来て、その言葉の定義をみんなが知っていれば、話がしやすくなるという点で、数値の定義はとても便利だ。「逆グース」と言って、何十年前から長々と説明しなければ何のことかわかって貰えなかったことが、「プログレッションの非常に大きな」アイアンクラブと言えば、その一言で私のクラブを簡潔に紹介できるようになってきた。



「重心角」というのも定義されて、「ゴルフ屋さんの棚に並べられているアイアンヘッドのぶら下がり具合を見ると、ブレードは真っ直ぐ垂直にならず、左に曲がっている。その角度が出来るだけ小さなクラブを作っています」と言う代わりに「重心角ゼロのアイアンを作ろうとしています」と言えば済んでしまう。言葉の定義があって、それが多くの人に共通な認識であれば、数値の定義は便利な言葉と言える。



しかし逆に問題もある。まだ定義のない重要な数値もあるだろうし、すでに定義された言葉が相応かどうかにも疑問が残る。グリーン上でパターをつり下げて傾斜を見るゴルファーがいるが、ゴルフクラブはそうやってつり下げたとき、シャフトが垂直にならない。ヘッドがあるからだが、この時の角度を私は「クラブの重心角」と呼びたかった。



そしてすでに定義されている重心角の方は、「ヘッドの重心角」と呼びたかった。私のパターは重心角ゼロで作ってある。だからシャフトは地面に垂直にぶら下がる、と言いたいところだが、この場合、定義された重心角ではこういう言い方は出来ない。



言葉の定義とその数値は明確で間違いのない言葉だが、それを数値の「意味」と勘違いするゴルファーが多い。数値自体の「意味」とは、その定義に対する「数値」だけで、たとえば重心角がどうだと打ったときどうなる、というのは確定した「意味」ではない。必ずそうなるわけではない。



バックスイングをシャットフェイスで上げるタイプと、普通よりも大きく開いていくタイプとでは、クラブの数値が与える影響は同じではなくなり、逆になる場合もある。機械が打つ場合は無神経だが、人の神経は非常に敏感だから、無意識に修正する機能を持っている。それがいよいよ数値の「意味」をあいまいにする。通り一遍の「数値の意味」を信じるより、その数値に意味を理解して自分のスイングに照らして参考にするべきだろう。



ボールの捕まりやすいクラブ、という言い方がどうも気に入らない。これを数値で表している場合がある。数値に「いい」「悪い」があるか、馬鹿野郎。プロがボールを引っ掛けたとき、捕まえ過ぎた、と表現する。少し当たりが悪くてボールがやや右へよろけたとき、こすったと言う。



これは気分的にはわかるが、ババ・ワトソンが大きなスライスボールで340ヤード打ったときに、「ボールをこすった、とか、つかまりが悪かった」とは絶対に言わない。言うわけがない。ナイスショットなんだから。私の場合はボールがアイアンヘッドの中に長居しすぎて引っ掛かったら悪い当たりだったと思うし、ちょっと早く逃げだした感じの時、当たりが良かったと感じる。



数値というのは感情を入れないところに価値があるわけで、その数値をどう読むか、それはまた別の話になるということを忘れないようにしていただきたい。テニスのブブック「テニスからテニスへ」にラケットの使い方として「スプーンの裏技」というのを書いているが、ボールを捕らえる話と同じなので少し書いてみる。



テニスラケットにはガットが張ってある。これは弾力があってボールを打つとへこむ。ごく柔らかく張ったラケットは虫取り網のような感じになる。そこで、初心者はまずボールを捕らえることが先決だから、ラケットを虫取り網のイメージで使うのが普通だ。スプーンで言えば、スプーンで砂糖をすくうようなイメージでボールを捕らえる。ボールは逃げ出さないからとても楽なのだ。



ところが、上級者になるにしたがってこの手を使わないようになる。スプーンを普通に使えばボールを捕らえるのは簡単だが、ボールをリリースするのが難しくなるのに気付くからだ。パンにバターを塗るのにスプーンを使うとき、大人になるとスプーンの裏を使うようになる。知恵が発達するからだ。



バターを普通にザックリとすくってパンに塗り始めると、スプーンの中の方にあるバターは塗れなくなる。パンの角でこすり取って塗るしかない。大人になってもそうやっている人もいるようだが、大抵はある年齢を過ぎた頃から、スプーンの裏、ふくらんだ方でバターをつかむようになる。


スプーンの裏でバターをケースから取り出すのには力の加減が必要で、子供はパンに行き着く前にポトリと落とすかも知れない。しかし、裏で取り出した場合、いざ塗り始めると、楽にきれいに塗ることが出来る。



テニスも同じで、ラケットをスプーンの裏側、つまりふくらんだ方でボールを取るようなイメージで動かすと、ボールを捕らえるのは難しい。ちょっと間違えるとボールはあらぬ方向へ行ってしまうが、一度捕らえたら、リリースするのは簡単で、好きなところでボールを放(はな)すことが出来る。



ところが、スプーンの普通の使い方のように、ボールを虫取り網のイメージでつかんでしまうと、つかむのはとても簡単だが、いざここでボールをリリースしようとすると、ボールが網の中でゴロゴロ動いてタイミング良く出ていってくれない。だから全てのプロと上手なアマチュアのプレーヤー達は、ラケット面をスプーンの裏側のようなイメージで使う。



電信柱を相手に壁打ちのようにボールを打ち続けるのは簡単でない。ちょっと位置がズレるとたちまちあちらこちら、あらぬ方角へボールがハネてしまうから続かない。しかし上手な人は出来る。そういう人たちがテニスをするとき、ラケット面が電信柱のようなふくらんだイメージであっても、ボールをしっかり捕らえることが出来る。そしてボールをリリースするタイミングは自由である。



ゴルフでも、ボールが捕まりやすいということは、放(はな)しにくいということでもある。つまり下手くそなわけで、クラブはボールが放しやすい、捕まりにくい方がいいということにもなるし、スイングイメージも、ボールを捕らえることより放す方を考えるのが上級者の心得と言えるかも知れない。



もっとも、ラケット面はかなり柔らかいので、ゴルフクラブのフェイス面の硬さとは違うが、プロゴルファーがキャヴィティタイプのアイアンを嫌うのは、それがラケット面のような、レヴェルは違うが幾らか弾力を持っていて、ボールをつかまえるのは楽だけれど、放すときに自由が利かないのに気付くからなのかも知れない。



「ボールを捕まえる」のが楽なクラブが必ずしもいいクラブではないし、本来「うまく捕まえる」というのは思ったところに飛ばすことが出来る、ということであって、引っ掛かることではあり得ない。クラブの数値は感情を持たない。勝手なイメージも持たない。イメージやその意味は、ゴルファー一人一人が感じるべき事である。



したがって、ゴルフの数値が意味することを鵜呑みにしてはいけない。嘘だってあるんだから。 メーカーは好きこのんで数値を定義しているわけでも、公表しているわけでもない。ゴルファーが欲しがるからやむを得ず測り、公表していることだってある。彼等は数値の意味が勝手に一人歩きすることの危険性を知っているのだと思う。筆者



ラケットの場合はガットが柔らかいからボールが自由に放せなくて困るのだが、ゴルフクラブのキャヴィティの場合は逆に、ボールの球離れが早すぎて困るのかもしれない。だとすれば、レギュレイション(ルール)が許すなら、フェイス面が非常に柔らかいアイアンを作ったりして、球離れの遅いアイアンを作れば、プロにも使えるキャヴィティは作れるだろう。



テニスではプロはみんなスプーンの裏技を使うが、例外が一人、それはジョン・マッケンローで、彼は非常にゆるいガットテンションのラケットを使い、速いボールを打てた。彼のスイングを時間的に積分すると、普通のプロとは全く違う数値が出る。



彼はガットの弾力を使い切ってなお、うまいタイミングでボールをリリースする特別な感性を備えていた。彼のサーヴフォームは特徴的で、相手の完全に背中を向けたところからスイングをスタートさせる。



ガットが柔らかいためにボールを保持する時間が長くなる。したがって普通のフォームではリリースが遅れてネットする。それを防ぐために、リリースポイントから逆算して普通のフォームよりも早いタイミングでボールを捕らえるようになった。




マッケンロータイプのストローカーは彼以来一人も出ていないが、それだけボールを捕らえやすい道具を使った場合のボールコントロールが難しい、ということである。

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