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浜辺からの投げ釣りでは、出来るだけ遠くへおもりを、つまりエサを投げたい。竿が木で出来た丸棒では硬すぎて飛ばないだろうし、柔らか過ぎれば、パワーのある釣り人は持っているパワーを使い切れずに、言ってみればその竿の柔軟性の限界までの力しか入れられない。パワーのない人と同じ距離しか飛ばせないことになる。



だから釣り人は自分が振り切れる限度一杯まで硬い竿を使うだろう。輪ゴムをビューンと伸ばしてパッと離せば、輪ゴムは目にも留まらぬ速さで飛んでいく。しかしパワーのある人が思い切り引っ張れば輪ゴムは切れてしまう。輪ゴムの飛距離を競うなら、パワーのある人はもっと太い輪ゴムを使いたいと思うだろう。自分が引っ張り切れる限界の太さの輪ゴムを使えば、パワーの無駄が出ないから、飛距離は柔らかい輪ゴムの何倍も遠くに飛ぶ。



釣りの世界を知らないから何とも言えないが、釣具屋さんが投げ竿を売るとき、お客の釣り人のパワーを知らなければ最適な投げ竿を選んで売ることはできない。ゴルフで言うスイングスピードのようなものが、釣り人にもあるはずだ。それを測る機械が釣具屋には置いてあるのだろうか。



ゴルフと違って投げ釣りの竿は解析が楽である。竿のしなりと、それが戻る力、つまり竿にため込めるしなりエネルギーを計算するだけでいい。竿の中心軸がねじれて起きる、いわゆるモーメント・オブ・イナーシャは無視できる。ゴルフはそれが無視できない分、いろいろと高価な道具が作れる、ということにもなる。



ゴルフの場合だって、シャフトのしなりは投げ釣りの遠投と同じ効果を持っている。柔らか過ぎるシャフトではパワフルなゴルファーのパワーが生きてこない。だからプロは硬いシャフトを使う。いや、使ってきたと言った方がいいかも知れない。素朴な話としては、引っ張りきれる限り太い輪ゴムを使うのと同じことだ。しかも、硬いシャフトほどねじれを小さく作れたので、ボールの方向性も安定する。一石二鳥だった。



ところが、非力なアマチュアがプロのようなすごい飛距離を夢見るものだから、メーカーも儲けるためにいろいろ考えねばならない。まずはじめは素朴に、それぞれのゴルファーに最適なしなりを持ったシャフトを提供した。これは普通に正しい話である。次には反発係数の高いヘッドを開発したが、これは結局ゴルフの監督組織に拒否された。



しかしその純粋な技術的努力について、メーカーは少しも恥じる必要はない。それどころか、そもそもそれほどの技術を生み出すことを予想できなかった監督組織の度肝を抜いたのだから、こんな痛快な話は他にない。その昔、伊沢プロがトーナメントに出るためアメリカへ出かけたとき、彼のドライヴァーショットがそのスイングから受けるイメージを遙かに越えて余りにも飛ぶのを見たアメリカのプロ達が、彼のクラブをテストして欲しいとトーナメント開催組織にクレームを出したことがあった。



あれが日本のメーカーが発明した高反発だったかどうかは知らないが、そのドライヴァーに当時のレヴェルではレギュレイション上の問題は出なかった。彼の軽いスイングから打ち出された、周りで見ていたプロ達が驚いた、とんでもない飛距離が何だったか、それはわからないが、少なくともそこに日本のクラブメーカーの技術と、伊沢プロの技術があったのは間違いない。



48インチに制限されたドライヴァーだが、今それを使うプロは少ない。しかし将来的には規制の限界まで使うようになるのは明らかだ。特にフラットスイングのゴルファーにとって長さは問題ではない。アップライトに振るプロにとって、48インチは身長が2メートル以上ないと打法に工夫が必要になってくる。だから当面、48インチのドライヴァーはアメリカでは一般化しないが、身長が高いオランダ人などならば問題なく使えるだろう。



日本のメーカーはもっと別の、怪しい作戦に走っている。簡単に言えば、輪ゴムの太さを変えずに、その輪を大きくすることを考える。輪の大きな輪ゴムならば、太さを変えずとも、パワーがなくとも、遠くまで飛ばせる。柔らかくて長いシャフトを作る。ついでにねじれが戻る力、これは釣り竿にはない力だが、それをも使おうと、この頃シャフトはトルクの大きな、簡単にねじれるものが増えてきた。



スチールシャフトのトルクを1.5とすれば、今どきトルクの数値が6くらいのシャフトも作られている。それはどういうことかというと、昔のシャフトは板バネの原理で、そのしなりで飛ばしていたが、今はコイルのように鉄線が巻かれたスプリングを、絞るのである。絞った力は戻るとき使える。しかもコイルバネ自体も板バネ同様に全体がしなる。この二つの力で飛ばせと、メーカーは言っているのだ。



ところが、それは極めてトリッキーな方法で、余程非力なプロでない限り、使わない。しかしアマチュアはゴルフで食べているわけではなく、ただ楽しんでいるのだから、ビックリするような飛距離がたまに出てくれるなら、それ以外は林の中でも池の中でもお構いなしだ。




しかし時代の流れからすれば、世界一馬力のあるトッププロも、この方法に頼らなければならなくなる日がやってくるかも知れない。人のパワーには限界があるから、パワーが劣っていても飛距離は勝るという事実はおいしい話である。ただし、とてつもない練習量と鋭い感性がなければプロの世界では通用しない。



そしてその先にはまた別の技術、新しい発想による新しい飛距離の出し方が生まれる。問題なのは古い技術が忘れ去られ、あるいは古い道具が手に入らなくなって、進化しているつもりで実はそうでもない、という事態が起こることだ。



今のテニスラケットは250グラムまで軽くなっている。そうなると、それに合ったスイングしか出来なくなる。ところが、そのスイングが以前のスイングより進化しているとは限らないのだ。ただ350グラムのラケットが存在しなければ、それに合ったスイングは忘れ去られる。その方が最新のテニスより強力なのかもしれないのに。 筆者

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