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以前はシャフトのスペックといえばX,S,R,Lというのしかなかった。これらは硬さの表示だが、しなりとねじれの区別はない。しなりが少なければ硬く、同時にねじれも少ない。そういう製品しか作れなかったからこれで良かった。


ところがこの頃は事情が変わってきている。カタログにトルクが表示されるようになった。興味深いのは同じ製品の場合、XとSとRという硬さの区別があるのに、トルクは皆同じだということだ。つまりしなりの度合いは違うがねじれは同じ、そういう製品が作れるようになったということだ。


そしてトルクについては、同じ製品群の中で重量が大きい方がトルクが小さい。40グラムクラス、50グラムクラス、60,70,80グラムクラスというようにシャフトが重くなると、それぞれのクラスのトルクはだんだんと小さくなる。ただ、一つのクラスの中だけ見れば、X,S,Rはしなりは違うのだろうがトルクはどれも同じになっている。


トルクは数値だが、アルファベットの文字は各社適当に付けている。しなりも振動数で表現できるようになったのだから、もうすぐトルク3.0で振動数268、というような表示が一般的になるだろう。


しかし、重い方がトルクが小さい、あるいはトルクを小さく出来る、というごく当たり前そうに感じられる自然な感覚は、逆に言えば、依然としてシャフトの製造技術にはまだ進歩の余地があるということだろう。重量に頼らなければねじれの少ないシャフトは作れない、というのが現状。


そこでふと思い出すのはスチールである。昔カーボンがスチールを絶滅させるのではないかと思えるほどの勢いで普及し始めた頃、私は書いたことがある。「鉄はしぶとい」と。そしてそれから程なくしてアイアンがスチールシャフトに戻った。


スチールのトルクは普通2度以下である。無理をせずに黙って作って2度以下である。ねじれの大きなものを作ろうと思えば出来るだろうし、実際そういうシャフトは作られているが、普通はトルク2前後だ。それに対してカーボンのトルクは、3度と言えばかなり硬い部類に入る。またそれを作るためにメーカーは努力を惜しまなかった。


カーボンは今、しなりは大きくてもトルクは小さいシャフトや、逆にしなりは小さいがトルクは大きい、というようなシャフトを作り出している。本当に努力しているのだとつくづく思う。鉄でカーボンのような大きなしなりを実現するのは難しいだろう。この点ではカーボンの勝ちだ。それでもトルクの方面では重量の壁を破れないでいる。それならスチールはどうか、と思うのである。


スチールはトルクに関して何ら問題はない。しかし重さは問題なのである。その重さゆえの低トルクと言っても過言ではない。軽量化をさらに推し進めながら、トルクを落とさずに振動数の小さな、つまり柔らかいシャフトを作れないものだろうか。こうしてカーボンとスチールは、互いに逆方向から理想的なシャフトを目指している。


今のところ、両者はアイアンとウッドによって住み分けしているけれど、どちらも当然世界制覇を狙っている。元々スチールが統一王者だった。スチールはヒッコリーを駆逐して王者になった。そして今度はカーボンがスチールを駆逐して王者になる、はずだったが、鉄はしぶとかった。


カーボンシャフトの素材は人工的に作るのだから言わば無限にあると言える。一方鉄は地球上に無限にあるわけではない。が、地球の地殻中には4.2パーセントの鉄がある。その量は無限といってもいいくらいの量である。それにゴルフのシャフトに使う鉄なんて、微々たるものだ。だからこの点で両者は互角。


ただ鉄は私たち人間の歴史上、長い間親しんできた材料であり、何より人間の体の中にも鉄はある。人は3グラムの鉄を体の中に持っている。血が赤いのは鉄があるからに他ならない。グロビンというタンパク質とヘミンという化合物が結合してヘモグロビンとなり、それが酸素を体中へ運んでいる。私たちは鉄に愛着があるのだ。


鉄はFeだが、純粋なものはほとんど存在しない。なぜかと言えば、全ての鉄には少量の炭素、つまりカーボンが入り込んでいるからだ。炭素の含有量が多ければ鉄は硬くなる。しかし、たぶん幾らかもろくなるだろう。それにしても、鉄と炭素は自然界でもある意味戦っている。


カーボンシャフトが作り始められた初期、鉄とのハイブリッドというのが普通だった。カーボンシャフトだと思っていたら、切ってみると中から鉄のシャフトが出てきた。インチキと思ったものだが、ハイブリッドと言えば聞こえがよくなる。


まだまだカーボンの強度が足りなくて、それで鉄の力を借りたのだと思うが、それならカーボンの覆(おお)いは何の役に立っていたのだろう。すでに鉄より固い樹脂さえ作られるような時代になり、カーボンシャフトも十分な強度を確保している。そして現在では別の事情によって新たなハイブリッドシャフトも作られている。


ゴルファーのための理想的シャフトとは、よく飛んで曲がらないシャフトだが、クラブを振り回すゴルファーの方がちっとも理想的なスイングに近づかないので、メーカーの努力目標が「理想のシャフト」から「売れるシャフト」へと方向転換し始めた今日この頃。


それでも私はメーカーに一層の努力をお願いしたい。もうそれは商売と言うより技術屋の意地として、理想のクラブ、あるいはシャフトを目指して欲しいと思う。電気仕掛けで誰がどんなスイングをしようとも曲がらないクラブ。無論売り物には出来ないがそこに夢はあるだろうし、その夢の実現の過程で新たに見つかるもの、発想がきっとある。


現実的にはトルクが非常に小さいのに柳のようにしなるシャフト、たぶんこれが取りあえずの究極シャフトになると、私は思っている。シャフトとヘッドでドローやフェードを生み出すという考え方は結局他力本願であって、その方向にゴルファーの未来はない。 筆者

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